2016年12月9日金曜日
ブルーエコノミー[Gunter Pauli]
〜『English Journal』2016年1月号より〜
EJ:ここ数年、あなたのお仕事の中心になっているのは「ブルーエコノミー」の概念です。
The main thrust of your work in recent years is the concept of the "blue economy."
ブルーエコノミーとは、何でしょうか?
What is the bluer economy,
そして、この、サステナビリティ(持続可能性)を高めるための解決策に至るのに、個人的にもお仕事の上でも、どういった段階を経る必要があったのでしょうか。
and what steps have you had to take both personally and professionally to arrive at this solution for moving toward greater sustainability?
Dr. Gunter Pauli
まず言っておきたいのは、ブルーエコノミーは、数ある解決策のうちの一つにすぎない、ということです。
First of all, the blue economy is just one of the solutions.
私たちが直面しているすべて(の問題)を解決できる唯一の策がある、というふりなどできません。
We can never pretend that we have the solution for everything that we're facing.
あるものを活用する。
You use what you have.
価値を見いだすことに注力する。
You focus on generating value.
すでに持っているものから多くの価値を生み出せるので、たくさんの雇用を創出することが可能です。
You increase so much value with what you have that you can generate a multiple of jobs;
(人々の)購買力を高め、地域経済で貨幣を循環させることができます。
you will improve purchasing power and you circulate the money in the local economy --
早ければ早いほどいい。
the faster the better.
それがブルーエコノミーです。
That's blue economy.
私たちには、そういった方向転換を可能にする方法論が幾つかあります。
But we have a few methodologies that allow us to see the turnaround.
例を挙げると、何かを別の何かで置き換えるのではありません。
For example, we don't substitute something with something else;
あるものを何もない状態にするのです。
we substitute something with nothing.
つまり、より高効率な電池(の開発)への投資を始めるのではなく、「電池なし」と主張するわけです。
So, instead of saying we're going to start funding batteries that are more efficient, we're saying, "No batteries."
リバウンドがあるのを知っているので。
Because we know the rebound effect.
つまり、こういう事態はすでに報道されていますが、
Well, I mean we've, this all been documented --
より効率的な電池がいったん誕生すると、誰もがリチウムを採掘したがるようになります。
once we have more efficient batteries, now everyone will want to mine the lithium,
そしてリチウムは、世界最大の産出地であるボリビアの高地で採掘されます。
and the lithium is gonna come from the high mountains of Bolivia, which have the largest deposits in the world.
(地域の)生態系を破壊するのは、いったい何をするためでしょう?
We're gonna destroy that ecosystem in order to do what?
より効率的な電池を手に入れるため?
To have a battery that is more efficient?
悪影響が以前より小さくても、悪いことに変わりありません。
I mean, doing less bad is bad.
それがわかってきたので、悪いものは完全に排除すべきだ、と言わざるを得ません。
That's what we've learned, and therefore, we have to say that what is bad needs to be eliminated,
人間の知性と創造力があれば、そして自然から学ぼうという意識があれば、そうする方法は見つかるはずです。
and we -- with our human intelligence and creativity -- if we're prepared to be inspired by nature, we will find ways to do it.
私たちは、最も創造的な考え方をしなければなりません。
We have to put ourselves in the most creative mind --
「無」という考え方です。
that is "the nothingness."
何もない。
There's nothing.
何もない世界にいても、うまくいっている様子を想像してください。
And now we're in this nothing, imagine how it still works.
無の意識を身につけ、あるものを無に置き換えたら、
And if you have the nothingness, the substitution of something with nothing,
代替効果のわなにはまることも、望まない結果になることもないでしょう。
then you will not go through the trap of the substitution effect and have undesired consequences.
私たちはブルーエコノミーを通じて、豊かさの感覚を生み出したいのです。
In the blue economy, we wanna create a scene of abundance.
倫理の欠如
Without Ethics
EJ:ブルーエコノミーのもう一つの側面として、サステナビリティに向けて、新しく、より厳しい基準を設定する、というものがあります。
The other aspect of the blue economy is to set new and higher standards toward sustainability.
あなたは1992年に、リオ(デジャネイロ)で開催された、国連で初めてのサステナビリティに関する会議に参加されました。
And back in 1992, you were there at the first U.N. conference on sustainability in Rio.
これらの原則(アジェンダ21)をまずは理解するという点において、私たちはどの辺りまで来たのでしょう?
How far have we come in even understanding what these principles are?
この20年で、アジェンダ21の目標はどこまで達成されたのでしょうか?
How have the goals of Agenda 21 been achieved 20 years later?
Dr. Gunter Pauli
そうですね、アジェンダ21とミレニアム開発目標について言うと、国連は別の目標に移行したがっています。
You know, Agenda 21 and the Millennium Development Goals, they now wanna transform into other goals.
今日の世界は、そうやって自分をごまかしているのです。
So, this is how our world, uh, fools oneself.
すでに目標があったのに、新しい目標をつくろうとしているのですから。
I mean, we had goals, and now we're gonna create new goals.
私としては、もっと深く追求しなければならないと思っています。
To me, we have to go much deeper.
(目標の)倫理性について、もっとよく考えなければなりません。
We have to be more aware about the ethics.
数値で示された目標ではなく、倫理的な指針に従うべきなのです。
We have to be guided by ethical principles, not by goals set in numbers.
私たちに欠けているのは、倫理です。
And the ethics is what we're missing.
自分たちが根本的に、そうと意識せず、いかに非倫理的な行動をしているかに気づくと…、
And when we realize how unethical we fundamentally behave without realizing it, you know...
それが人類の改革運動なのです。
and that's the crusade of humankind --
自分たちがどのような行動をしているか、理解しはじめなければいけない、ということです。
is that we have to start understanding how are we behaving.
何しろ私たち人間は、陶磁器店に迷い込んだ象のようなもの。
Because we are elephants in the porcelain shop.
しっぽを振り回しては、自分たちがどれほど多くを破壊しているかも知らないのです。
Our tail waggles and we have no idea haw much we're destroying.
私たちが現在進めているプロジェクトの中から、とても具体的な例、至急、新たな倫理が必要だと思われる例を挙げてみましょう。
I mean, to give you a very concrete example of one of the projects we're working on and where we believe new ethics is urgently needed.
例えば、私がこんな話をしたとします。
When I were to tell you that
2週間後に出産予定の雌牛を飼っている農民がいます。
there is a farmer who has a cow that will calve in a couple weeks,
その農民は雌牛を精肉所に連れていき、解体処理をさせました。
and the farmer brings the cow to the butcher and slaughters,
おなかの中の子牛もろとも、雌牛を殺したのです。
killing both the unborn calf and the cow,
(そう聞くと)私たちは、その農民を残酷な人だと思うでしょう。
we would consider that person a horrible person.
その行為は、まったく理にかなっていません。
No logic to it whatsoever,
なぜなら、私たちは生命を賛美し、食糧やミルク、それらを手に入れる機会も、たたえているからです。
because we celebrate life, and the food and the milk, and we celebrate the opportunity.
まず子牛を生かそうともしないなんて残酷なことが、どうしてできるのか、理解できないでしょう。
We don't understand why someone could be so barbarian not to let the calf live first.
かと思えば、私たちは漁に出て、網で大量の魚を捕ります。
And then we go fishing, and then we fish in these nets,
その中の12〜15%は、卵をはらんだメスです。
uh, tons of fish, including 12-15 percent females with eggs.
でも私たちは、卵のあるメスをさばき、むしろ、卵が食べられることを喜びます。
And when we fillet them, we actually enjoy the fact that we can eat the eggs.
私はそこが理解できません。
I don't get it.
卵をはらんだメスを捕獲し、殺し、楽しみや贅沢のために卵を食べておきながら、サステナブルな漁をし、サステナブルな海にすることが、可能なのでしょうか?
How could we ever have sustainable fishing, sustainable oceans when you are harvesting, killing the females with eggs and eating the eggs as a pleasure, as a luxury?
いったいどうやって?
You know, how could you?
魚であれば普通のことで、動物だと残酷だと思う。
Now, we think it's normal with a fish, ha, but we think it's a barbarian with an animal.
私たちはいったい、どうなってしまっているのでしょう?
What's wrong with us?
人間は、自分たちの行動にまったく倫理が欠如していることに気づくべきです。
But we have to realize the way we're behaving lacks all ethics.
私たちはそのことを理解していません。
And we don't realize it.
みんな、比類なく巨大な自尊心をもった有名人たちの大規模な会議を開くことに意識を集中しすぎています、倫理を無視して、立派なミレニアム開発目標を立て、その後、別の目標を立てるために。
We are too much focused on having massive deliberations with famous people who have the greatest egos in the world to have the wonderful Millennium Development Goals, and then the next set of goals, without ethics.
どうして私たちには「完全雇用のみ」と主張できる倫理がないのでしょう?
How come we don't have the ethics that says there is full employment only?
どうして、そんなことは不可能だ、と主張する経済学者についていくのでしょう?
How come we let ourselves be guided by economists who say that's not possible?
そんな経済学者は、部屋から追い出してください。
Put the economist out of the room.
自然界では、誰にも仕事があり、仕事のない人などいません。
In nature, everyone is employed, no one is unemployed;
誰もが、それぞれの能力を最大限に発揮しながら貢献しています。
everyone contributes to the best of their capabilities.
そうすることで、社会に回復力が加わるのです。
And that gives a resilience in the system.
生命の網
The Web of Life
さて、優秀な人、特に優秀な人と一緒に働きたいとなると、排除される人が出てきます。
Now, if you wanna work with the able, the very able, now, that means you're going to create exclusion.
私たちの経済システムは、排除の上に成り立っています。
And we have an economic system that is built on exclusion.
では、シングルマザーや孤児だけを含めればいいのか?
And are we then only going to include the single mothers and the orphans?
いいえ、社会のすべての人を含めるのです。
No, we're gonna include everyone in society.
市場に柔軟性を持たせるために失業が必要だ、という経済論理がありますが、
So, by having this economic logic that unemployment is a need for having flexibility in the market...
社会の回復力という点ではどうでしょう?
well, what about resilience of society?
鍵となるのは、柔軟性でしょうか、それとも回復力でしょうか?
I mean, is flexibility the key or is resilience the key?
一人の人間として申し上げたいのは、私は回復力に目を向けたい、ということです。
And I would like to submit that as a human being, I like to see resilience.
皆さんもご存じのように、最悪の事態というのは起こるものです。
Because we know that the worst will hit,
津波も来れば、
we know the tsunami will come,
すぐそこに台風も来ている。
we know the typhoon is around the corner,
となると、何が必要でしょうか?
so what do you need?
柔軟性?
Flexibility?
いいえ、回復力です。
No, you need resilience.
私たちには、立ち直ることのできる力が必要なのです。
You need to be able to bounce back,
一人ではどうにもできませんが、あなたにはネットワークが、生命の網があります。
and that you can't do on your own, and that means you have your network, your web of life.
私が注力しているのは、物事のやり方を変えることです。
My focus is on changing the rules of the game.
と言っても、学校で説明したり、まったく同じルールを採用するよう頼んだりするわけではありません。
And not by explaining them to everyone through schools and as everyone to adopt exactly the same rules,
なぜなら、そうしたルールは進化し、変化し、適合していくものだからです。
because those rules will evolve and change and adopt.
私はそれを、教義や法律にする気はありません。
I don't wanna put 'em into dogma or laws.
グローバル化経済のルールをつかわなくても、貧困問題への対処はできる、そうわかっているということを、はっきりさせたいだけなのです。
I just want to make certain that we know that we can respond to poverty not using the rules of the globalized economy.
現状に目を向けると、グローバル化経済はすでに貧しい人を排除しています。
And I look at the situation and say the globalized economy already made an exclusion of the poor
貧しい人の元に(恩恵が)及んでいないからです。
because they don't reach the poor.
貧しい人はグローバル経済から排除されている。
So, poor people are excluded from the global economy,
ならば私に、排除された人たちを含めた経済を示す言葉をつくらせてください。
so let me create the terms of the economy with those who've been excluded.
なぜなら、私たちが忘れてしまうのは、大切なのは競争力ではなく、今あるもので人々のニーズに応えることだからです。
Because what we forget is that it is not about the competitiveness, it's about the response to the needs of the people with what they have,
これは第一段階でしかありません。
and that is only Step 1.
第二段階は、貨幣は地域経済の中で循環させる必要がある、ということです。
Step 2 is that money needs to circulate in the local economy.
そうして生命の網をあらためてつくるのです。
And this is where we recreate the web of life.
一方でわれわれは、価値をあらためて作り出しているわけです。
But we recreate the value.
生命の網には、生命を維持したいという欲求があります。
The web of life has a desire to sustain life.
生命の網とは、生命を賛美すること。
The web of life is to celebrate life.
栄養、エネルギー、物質を循環させれば、生命をたたえることができます。
And you celebrate life by cycling the nutrients, the energy, the matter.
ただし、価値をどんどん与え続けることで循環させていくのです。
But you cycle it always by giving more and more value.
Interviewed by Kathy Arlyn Sokol
訳:中村有以
社会活動家
グンター・パウリ
Gunter Pauli
1956年、ベルギー生まれ。「ゼロエミッション」構想と「ブルーエコノミー」の概念を提唱。循環型社会の実現を目指し、世界各地でさまざまなプロジェクトに従事している。1994年から97年まで国連大学(東京)の学長顧問を務め、94年の世界経済フォーラムでは「次世代のリーダー」の一人に選出された。
グンター・パウリ氏をひと言で称すると、「稀代のコンセプトメーカーにしてその伝道者」である。世界中を飛び回る氏の活動と、本インタビュー中に登場する幾つかのキーワードに、持続可能な未来へのヒントが見いだせるのではないだろうか。
まず筆頭に挙げられる考え方が「ゼロエミッション」である。電気自動車や燃料電池車の登場により、今ではすっかり認知された感のある言葉だが、さかのぼること1994年、当時、国連大学の顧問であった同氏が提唱したコンセプトである。
「ゼロエミッション」とは、複数の産業が連環を構築し、廃棄物を資源として再利用することで、最終的な廃棄物をゼロにすることを目指すもの。以前、北九州エコタウンを筆者が案内した際に、まさしくゼロエミッション構想を具現化した事例として、氏が感激していたことが思い出される。
次に「自然や生物から学ぶ」ということ。
そもそも産業の生態系を構築するゼロエミッションという着想は、自然の生態系においては、全体として廃棄物が出ないことへの気づきから生まれた、と聞く。
色素をつかわずに蝶の羽の構造をまねて発色させたドレス。ヤモリの足の構造をまねた接着テープなど、生物の機能や構造からヒントを得た製品を開発する生物模倣技術の発展にも、Nature's 100 Best という共著書で、世界を変革する可能性を秘めたそれらの事例をいち早く紹介した、氏の慧眼が寄与している(脇坂港)。
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