2016年11月23日水曜日

斎藤茂吉『念珠集』青根温泉


斎藤茂吉
念珠集






 8 青根温泉

 父は五つになる僕を背負ひ、母は入用いりようの荷物を負うて、青根あをね温泉に湯治たうぢに行つたことがある。青根温泉は蔵王山を越えて行くことも出来るが、そのふもとを縫うて迂回うくわいして行くことも出来る。

 父の日記を繰つて見ると、明治十九年のくだりに、

『八月七日。雨降。熊次郎、おいく、茂吉、青根入湯にゆく。八月十三日、大雨降り大川の橋ながれ。八月十四日。天気よし。熊次郎、おいく、茂吉三人青根入湯がへり。八月廿三日。天気吉。伝右衛門でんゑもん、おひで、広吉、赤湯あかゆ入湯に行。九月ついたち。伝右衛門、おひで、広吉、赤湯入湯かへる』。

ここでは、父母が僕を連れて青根温泉に行つたことを記し、ついで、祖父母が僕の長兄を連れて、赤湯温泉に行つたことを記してゐる。父の日記はおほむね農業日記であるが、かういふ事も漏らさず、極く簡単に記してある。青根温泉に行つたときのことを僕は極めてかすかにおぼえてゐる。父を追慕してゐると、おのづとその幽微になつた記憶が浮いてくるのである。

 父は小田原提灯ちやうちんか何かをつけて先へ立つて行くし、母はその後からついて行くのである。山の麓の道には高低いろいろの石が地面から露出してゐる。石道であるから、提灯の光が揺いで行くたびにその石の影がひよいひよいと動く。その石の影は一つ二つではなく沢山にある。僕が父の背なかでそれを非常に不思議に思つたことをおぼえてゐる。

 まだ夜中にもならぬうちに家を出て夜通よどほし歩いた。あけがたに強雨がううが降つて合羽かつぱまで透した。道は山中に入つて、小川は水嵩みづかさが増し、濁つた水がいきほひづいて流れてゐる。川幅が大きくなつて橋はもう流されてゐる。山中のこの激流を父は一度難儀してわたつた。それからもどつてこんどは母の手をかへて二人して用心しながら渡つたところを僕はおぼえてゐる。それから宿へ著くとそこの庭に四角な箱のやうなものが地にいけてある。清い水がそこに不断にながれおちてうなぎが一ぱいおよいでゐる。そんなに沢山に鰻のゐるところは今まで見たことはなかつた。

 帳場のやうなところにゐる女は、いつも愛想よく莞爾にこにこしてゐるが、母などよりもいい著物きものを著てゐる。僕が恐る恐るその女のところに寄つて行くと女は僕に菓子を呉れたりする。母は家に居るときには終日せはしく働くのにその女は決して働かない。それが童子の僕には不思議のやうに思はれたことをおぼえてゐる。

 僕は入湯してゐても毎晩夜尿ねねうをした。それは父にも母にも、もはや当りまへの事のやうに思はれたのであつたけれども、布団のことを気にかけずには居られなかつた。雨の降る日にはそつとして置いたが、天気になると直ぐ父は屋根のうへに布団を干した。器械体操をするやうな恰好かつかうをして父が布団を屋根のうへに運んだのを僕はおぼえてゐる。

 或る日に、多分雨の降つてゐた日ででもあつたか、湯治客たうぢきやくがみんなして芝居の真似まねをした。何でも僕らは土戸つちどのところで見物してゐたとおもふから、舞台は倉座敷であつたらしい。仙台から湯治に来てゐるおうななども交つて芝居をした。その時父はひよつとこになつた。それから、そのひよつとこめんをはづして、囃子手はやしてのところで笛を吹いてゐたことをおぼえてゐる。

 父の日記にると、青根温泉に七日ゐたわけである。それから、

『明治二十丁亥ひのとゐ年六月二日。晴天。夜おいく安産』。

と父の日記にあつて、僕の弟が生れてゐるから、青根温泉湯治中に母は懐妊くわいにんしたのではないかと僕は今おもふのである。



出典:青空文庫
斎藤茂吉 念珠集




2016年11月20日日曜日

People get ready [Jeff Beck]





with Rod Stewart





with Sting





with Joss Stone





Aretha Franklin





Curtis Mayfield & The Impressions



People Get Ready

People get ready
There's a train a-coming
You don't need no baggage
You just get on board
All you need is faith
To hear the diesels humming
Don't need no ticket
You just thank the Lord

People get ready
For the train to Jordan
Picking up passengers
From coast to coast
Faith is the key
Open the doors and board them
There's room for all
Among the loved the most

There ain't no room
For the hopeless sinner
Who would hurt all mankind just
To save his own
Have pity on those
Whose chances are thinner
Cause there's no hiding place
From the Kingdom's Throne

So people get ready
For the train a-comin'
You don't need no baggage
You just get on board
All you need is faith
To hear the diesels humming
Don't need no ticket
You just thank, you just thank the Lord

Yeah
Oh
Yeah
Oh

I'm getting ready
I'm getting ready
This time I'm ready
This time I'm ready


Written by Curtis Mayfield







2016年11月19日土曜日

遅い、が早い[ハングル]



늦었다고 생각할 때가 
가장 빠른 것이다

遅いと思った時が
いちばん早い時だ。


日本語の似た表現としては

「思い立ったが吉日」





出典:テレビでハングル語




2016年11月15日火曜日

タバコを吸うトラ[韓国]


虎がタバコを吸っていたころ…

호랑이 담배 피우던 시절
ホランイ タムベ ピウドン ジジョル


これは韓国での決まり文句である。

その意味は…





「トラが煙草を吸っていたころ」というのは、韓国の昔話の出だしの枕詞だ。日本なら「むかしむかしあるところに...」にあたる言葉である。

ちなみに韓国の昔話にはトラがよく登場する。伝説上、韓国人の始祖は壇君(タングン)という人物であるとされるが、その壇君の神話にもトラが登場する。壇君の母親はクマから人になった女性であるが、実は、クマと一緒にトラも人になる試練に挑戦していた。しかし、トラはそれに耐えられず人になれなかったというのだ。

たしかに、現在の韓国にはトラはいない(朝鮮半島の北部には一部いるという)。しかし、過去は韓国にもトラがいた。かつての支配階級だった両班(ヤンバン)が歯ブラシ代わりにしていたという虎のヒゲを見せてもらったことがある。ヒゲ一本で、塗りの箸と同じくらいの長さと太さであった。その根の方を歯にあててこすっていたとのことであった(武井一)。







2016年11月11日金曜日

辞書の最初の意味[MIA MADRE]



L'importante è che tu non traduca i verbi con la prima cosa che trovi sul vocabolario.

大切なのは、言葉を辞書の最初の意味だけで訳さないこと。





映画『MIA MADRE(母よ)』

イタリア映画界の巨匠、ナンニ・モレッティ監督による感動のドラマ。映画監督のマルゲリータは恋人と別れたばかりで、離婚した夫との娘は反抗期の真っ只中。新作映画の撮影も思うように進まない中、彼女は母・アーダの余命がわずかであることを知る(「キネマ旬報社」データベースより)。




隕石の教える「太陽系の歴史」



隕石は、どこから来るのか?






その大部分は、火星と木星のあいだにある「小惑星帯(アステロイドベルト、asteroid belt)」からやって来る。この一帯は小惑星の宝庫であり、軌道がわかっているものだけでも30万個以上の小惑星が確認されている。

そうした小惑星のカケラが、ときに隕石となて地球に飛来するわけだ。その成分を分析してみると「地球にはない物質」が含まれていることがある。







そして不思議なことに、隕石の多くが「46億年前」に形成されていることが判っている。月もまた然り。

「つまり、われわれの太陽系が誕生したのは、その頃(46億年前)なんじゃないかと、隕石が教えてくれているわけです」







1970〜80年代、理論天文学者の林忠四郎氏は、太陽系の形成過程を「京都モデル」として提唱した。

そのシナリオはこうだ。

およそ46億年前、太陽の元となる「原始太陽」が誕生。その周りをガス(水素やヘリウム)や塵(炭素や砂)取り囲み、円盤のような形になる(原始太陽系円盤)。そして、ガスや塵が濃くなった部分から「微惑星」が形成され、衝突や合体をくりかえして、より大きな「原始惑星」へと成長していく。さらに衝突・合体がくりかえされると、はい、地球のできあがり、となる。







国立天文台の小久保英一郎氏は、太陽系が現在の形にまで成長する様子を、スーパーコンピューターを用いて再現してみた。

小久保氏は何十万という塵の粒を、コンピューターにインプット。重力や運動法則にしたがって、それら無数の粒々がどんな動きをしていくのかを、一秒間に1兆回の計算をして観察。

すると、最初は均一に散らばっていた粒々に、すこしずつムラが生じはじめる。そのムラは時間とともにだんだんと大きくなっていき、10万年経ったころには、大きさが数kmの「微惑星」があらわれていた。そして衝突・合体をくりかえしながら直径が1,000kmを超える「原始惑星」が誕生。一億年もすると地球サイズの惑星になっていた。

小久保氏は言う。

「原始惑星が平均10回衝突すると、地球サイズの惑星ができあがります。地球のような惑星ができるのに奇跡は必要ありません。太陽系の外にはすでに、地球と似たような環境にある惑星がたくさん見つかっています」







ところで、われわれの太陽系には、大きくわけて2つのタイプの惑星が存在する。一つは地球をはじめとする小さめの岩石系、そしてもう一つは木星のような巨大なガス惑星。

「どうして、木星や土星はこうもデカいんだと思いますか?」

それは「太陽からの距離」が深く関係しているという。

「太陽から近いところでは、太陽から発せられる凄まじいエネルギーによって、ガスなどの軽い成分が吹き飛ばされてしまいます。その結果、太陽に近い水星・金星・地球・火星には、個体である岩石ばかりが残されました。一方、太陽からより遠い木星・土星には、軽いガス成分が大量に吹き飛ばされてきました。だから、ぶよぶよと巨大化することができたんです」

では、もっと遠くにある天王星や海王星は、なぜ小さいのだろう?

「太陽から遠すぎるからです。星をつくる材料であるガスや塵があまり飛んでこなかったと考えられています」







30年ほど前、ハワイのすばる望遠鏡が「円盤状のガス」を世界ではじめて発見した。

それは「ぎょしゃ座」の星。誕生して100万年ぐらいの若い恒星だった。その周りには、林忠四郎氏の「京都モデル(のちに標準モデルとなる)」そのままに、円盤のようなガスが渦巻いていたのである。

2011年、観測装置の進歩によって、ぎょしゃ座AB星の円盤の一部に「切れ目」があることが確認された。

「ここには、生まれようとしている惑星があるのではないかと考えられています」











a broken man[オスカー・ワイルド]




すべての女性は母親のようになる。
All women become like their mothers.

これが女性の悲劇だ。
That is their tragedy.

男性は一人もそうならない。
No man does.

これが男性の悲劇だ。
That's his.


これは誰の言葉でしょう?

そう、オスカー・ワイルド(Oscar Wilde)です。






ほんの少しの誠実さは危険なものだ。
A little sincerity is a dangerous thing,

たっぷりの誠実さは命にかかわる。
and a great deal of it is absolutely fatal.


オスカー・ワイルドの末路(demise)は悲しい。

アルフレッド・ダグラス卿と肉体関係をもったことが原因で、彼は逮捕され、2年間の重労働(hard labor)の刑に処される。この2年で身も心もボロボロになったワイルドは、フランスで死んだ。人知れず、極貧のなかで。






ウワサになるよりも悪いことが、人生にはある。
There is only one thing in the world worse than being talked about,

それはウワサにならぬことだ。
and that is not being talked about."









日本は「顔」、韓国では何が「広い」?



足が広い

발이넓다
パリノルタ

韓国で「足が広い」とは、どういう意味でしょうか?


足が広いって何でしょう?(@_@)

足裏が広い?? 笑!違います。

韓国語で발이넓다の意味は、日本語の「顔が広い」という意味です!








2016年11月10日木曜日

星より料理[ブリア=サヴァラン]






新しい料理の発見は、新しい星の発見よりも人類を幸福にする。

La découverte d’un mets nouveau fait plus pour le bonheur du genre humain que la découverte d’une étoile.


ブリア=サヴァラン
Brillat-Savarin(1755-1826)

※天王星の発見(1781年)があった頃の言葉。ちなみに、海王星ものちに発見される(1846年)。







2016年11月9日水曜日

未来が過去に影響する[逆因果関係]



ある物理学者は、自由意志を可能にしているものは「量子力学のあいまいさ」であり、通常の因果関係に反して、未来が過去に影響をおよぼすこともあるのだと考えています。

モーガン・フリーマン
「ヒンズー教にカルマという概念があります。すべての行いは良いことであれ悪いことであれ、同じ強さで本人のもとに返ってくるというものです。原因と結果の倫理的な法則です。では、これが逆に働いたらどうなるでしょうか? 将来おこなうことが、過去に影響するとしたら…?」







この物理学者は量子力学を新たな見方でとらえようとしています。自由意志が宇宙の基本構造に組み込まれていると考えているのです。ケン・ウォートンは、サンノゼ州立大学の教授です。彼は、人間の日常のほとんどは自然界の基本原則で説明できるという考え方に惹かれてきました。

ケン・ウォートン
「子供の頃、よく両親が撮影したホーム・ムービーを見ました。見終わってフィルムを巻き戻すときも、映写機をつけたままにしていました。逆回しにするとすべてが滑稽に見えて、みんなで笑いました。でも、物理学者だった父はこう言いました。

『ケン、おまえが見ているものは、どっち向きに進んでいても、同じ物理法則にしたがっているんだよ』

まったく違っている見えるものが同じ物理法則にしたがっているとは、いったいどういう意味なのか、ずっと考えてきました」



物理学の法則は、人間の選択も予測できるものなのでしょうか? あるスタート地点から、あらかじめ定められたゴールまで、わたしたちを導く基本的な法則が存在するのでしょうか?

アインシュタインは存在すると考えました。相対性理論によれば、わたしたちはブロック宇宙というなかに住んでいます。そこでは、すべての時間と空間が一続きのフィルムのように配置され、過去・現在・未来が同時に存在しています。これは過去が未来に影響を与えるのと同様に、未来が過去に影響を与えることを意味する、とウォートンは考えています。

ケン・ウォートン
「未来は現在と相関関係があり、予測可能なものです。それを可能にするのが科学です。そうした予測をおこなっていくと、宇宙を散らばったカケラの集合体と見るよりも、一つの連続した構造物として見るほうが自然だとわかります」



ウォートンはこう考えています。量子力学的なレベルまで含め、あらゆる物事には明確なスタート地点とゴールがある。しかし、その中間には不確定性がある。

ケン・ウォートン
「これを説明するのが、逆因果関係です。わたしたちの未来における選択が不確定性を引き起こしているのです」

逆因果関係は、未来が過去に影響を与えることを意味します。出来事のはじめと終わりは決まっていても、その中間部分は量子力学によって融通がきくようになっています。そこに私たちの選択の自由がある、ということです。







ケン・ウォートン
「ニュートンが考えた時計のような宇宙空間では、最初の状態と物理法則によってすべてが決まってしまいます。その後の出来事に自由はありません。しかし、相対性理論から導きだされる宇宙空間では、物事は最初の状態だけでなく最後の状態からも影響を受けます。そのため、中間の出来事は最初からすべてが決まっているわけではなく、不確定な部分があります。そこに自由意志の存在する余地があるわけです」

わたしたちの最終的な運命は決まっているものの、どのようにしてそこに至るには正確には決まっていないというのです。

「私が1分後に何を決めるかはわかりませんが、何かを決定し実行するはずです。何を決めるか今はわかっていなくても、必ず決定はおこなわれる。過去が必ずしも未来の結果を縛るわけではないという、よい例です」






出典:モーガン・フリーマン「時空を超えて」
運命か? 自由意志か?



2016年11月6日日曜日

プラチナを探せ![南アフリカ]



液晶画面に「イリジウム」
半導体に「ガリウム」
電池には「リチウム」

これらは電気製品に使われている「レアメタル」の一例である。







そして自動車には、排気ガスをきれいにする触媒としてレアメタルの一つ、「プラチナ」が使われている。





ところで、その「プラチナ」、日本ではまったく採れない。世界中を見回せども、その採掘場所は極めて限られた、南アフリカの一地域にしか確認されていない。


プラチナの埋蔵量は南アフリカに集中

南アフリカの「プラチナ鉱山」地帯



プラチナの安定供給をめざし、宮武修一さんは南アフリカでプラチナ探しをはじめた。

宮武さんは言う。

「地表部分は、もう隈なく調べられていました。後発のわれわれとしては、いまだ探査のおこなわれていない場所を探すところから、まずスタートしました」



南アフリカは広い。

いったいどうやって独自の鉱床をさがすのか?

そこで用いられたのが、「重力探査」という方法だった。







地球の重力というのは実は、地域によって微妙に異なっている。

というのは、地下に比重の大きい物質、つまり重い物質が埋まっていると、その場の重力は大きくなるのである。


重力は均一ではない



宮武さんは言う。

「白金(プラチナ)を含む石は重いんです」

重力探査の結果、従来のプラチナ鉱山(下図、白枠内)の北側にもプラチナの鉱床が伸びている可能性があることが判った(下図、黒枠内)。


赤やピンクが、重力の大きな場所



磁気調査なども併用し、いよいよボーリング。

すると案の定、地下600m辺りからプラチナ鉱床が発見された。



宮武さんは言う。

「非常に大きなプラチナ鉱床です。南北13km、地下1,000mをこえて連続していることが、現在わかっています。これから、いったいどれだけ大きい鉱床に発展するのか、今後の探査が楽しみです」







出典:NHK高校講座 化学基礎