2016年12月15日木曜日

肺は思ったより大きいゾ![小池義孝]






〜小池義孝『ねこ背は治る!』より〜


酸欠状態の恐ろしさ


人間の身体は取り込める酸素量が少なくなると、その少ない酸素で、なんとかやり繰りをしてバランスをとろうとします。すべての組織や細胞が、平等に酸素不足になってしまう訳ではありません。つまり優先順位を決めて、酸素の配分調整をします。

それをするときに、まず重要なのは「死なない」ことです。脳や内臓の機能が落ちてしまったら危ないので、こうした生命活動の大切な部分は優先的に守ろうとします。その分、どこかを酸欠にせざるを得ないことになります。歩いたり、立ち上がったり、手をついたりする、身体を動かすための筋肉にしわ寄せがいく形になります。

家計を預かる主婦が、限られた収入のなかで懸命にやり繰りをして頑張っている姿に似ています。



しかし優先順位が下になってしまっても、その組織や細胞を殺してしまうほど追い込んではいけません。細胞が生き続けられるぐらいの最低限の供給はおこなおうとします。

その結果、全身の筋肉のあちらこちらに、死ぬほどではないけれども満足に機能できない部分がつくられてしまいます。また身体はその際にも、筋肉と筋肉とのあいだで調整をおこなっているかもしれません。

足を上げたり、身体をねじったり、ある動作をおこなう際には、通常は複数の筋肉が協同して作業にあたっています。歩けなくなるなど、特定の動作がまったくできなくなってしまわないよう、身体は何とかバランスを取ろうとします。

脳や内臓ほどには重要と考えていなくても、歩けなかったり起き上がれなかったりしたら、それはそれで深刻な状態です。場合によっては生命の危機ですらあります。ですから、よほどの不足でない限り、筋肉を酸欠で追い詰めるようなやり方はしません。



この無意識の調整が、自覚できない酸欠の問題を深刻にしています。

その人は日常生活に特別な支障を感じておらず、自分の身体の機能が落ちている事実すら把握できずに、毎日を過ごしていってしまうからです。

ですが、この筋肉の酸欠状態は、筋力検査をすればすぐに明るみにでます。治療院の現場でも、特定の筋肉にほとんど力を入れられない状態だけれども、本人は特に日常で問題を感じていなかった例が数多く確認されています。原因は酸欠だけの問題とは限りませんが、呼吸が改善されたときに、ケースの多くが同時に改善される傾向があります。

この配分調整の動きは、現代医療の目を惑わせているようです。現代医療では酸欠状態か否かを「血中酸素濃度」の測定によって判断します。けれどもこの測定方法では、今お話しているような酸欠状態はでてきません。



ある高齢の入院患者さんに出張施術をおこなった時のことです。あまりにも呼吸が浅く、顔色も暗く悪くなっていました。本人も息苦しさを感じており、息も絶え絶えでまともに話をするのも難しい状態です。

施術によって呼吸が深く楽になると、顔色も赤みがでてきました。そこでお話をお伺いして、驚きました。血中酸素濃度が正常値であったため、病院で呼吸には何も対処をしていなかったのです。

見れば息苦しそうで顔色も悪い。素人目にも異常が明らかな患者さんを、数値上は正常だと放置していたのです。この部分については、医療の分野も、早急に考え直してほしいです。





筋肉が酸欠をおこせば柔軟性が損なわれ、硬直してしまいます。それは血流を悪くさせ、身体を冷やします。

血流の悪さと身体の冷えは、東洋医学で言われる”未病”状態です。未だ病気ではないけれども、その予備軍で、いつどんな病気になっても不思議ではない危険な状況です。じつは現代社会の多くの人が未病状態で生活しています。そして問題なく健康だと考えている人の多くも、未病の少し上にいるだけで、あまり差がありません。

慢性的な酸素の欠乏は、このようにして結局はその人の生命活動の中枢を脅かしてしまいます。またそれがさらに呼吸を浅くさせる原因になり、悪循環に陥っていきます。酸素の欠乏は人間の生命活動の根幹にかかわります。



呼吸を深く安定させよう


呼吸が浅くなるのには、さまざまな原因が考えられますが、その中にはほぼ全員が抱えている「共通の問題」が存在しています。この問題を解決するだけでも、あなたの呼吸は大幅に改善できます。

このイラストをよく見てください。下は肋骨の底辺近く、上は鎖骨を少し越えたあたりまで、肺は大きく広がっています。このイラストのイメージを5秒、じっくりと観察してください。そうしたら、ゆっくりと深呼吸してみてください。




どうですか?

胸の上の方、鎖骨近辺が膨らんでくるのが感じられましたか?

もしそれが感じ取れたなら、この試みは大成功です。

では次に、このイラストをご覧ください。





肺は背中側に大きく広がり、背骨の真ん中あたりまで及んでいます。

このイラストのイメージをまた5秒、じっくりと観察してください。また同じように、吸うときの身体の動き方をよく観察しながら、深呼吸を2、3回くり返してください。

今度は自分の背中が大きく膨らんだのを、感じとれましたか? 今さっき確認した鎖骨の周辺も、同時に膨らみが感じとれているはずです。



いま、あなたの身体に何が起こったのでしょうか?

驚きのなかで、この文章を読まれている方も多いはずです。それをこれから、ご説明します。まずはこのイラストをご覧ください。





このイラストは間違っています。

けれども、つい数分前までの、あなたの肺の大きさと場所のイメージは、こんな感じでした。厳密には個人差があると思いますが、おそらくは大きくは違わないでしょう。また中には、背中側のイメージは正確だったけれども、まさか鎖骨を越えてくるとは思わなかった人もいるでしょう。

そうです。あなたは今まで、肺という臓器の大きさを、小さく小さくイメージしていたのです。あなたには、常識的な知識として、肺という臓器の存在を知っていました。しかし、その身体の中での大きさと場所については、「胴体の上のほうにある」という認識にとどまります。あなたの先ほどまでの認識を整理すると、大よそ、このような計算式になると思います。

「肺という呼吸のための臓器がある」+「それは胴体の上のほうにある」+「呼吸のときに胸が大きく膨らむ」

この計算から導き出された解答が、「肺は胸の前のほうに小さくある」という誤った認識だったのです。肺の大きさと場所を、本当の姿よりも著しく小さくしてしまっていたのです。



今までこの本を読みすすめられてきて、正しい肺の大きさと場所を、ほぼ正確に認識しています。ここで改めて、ご自分の呼吸の様子をみてみてください。

肺の大きさと場所の意識は、おそらく少しは、薄れていたでしょう。一度手に入れた正しい認識は生きつづけます。本人がずっと気にして意識しつづける必要はありません。こんな楽な健康法は、他にないでしょう。

呼吸が深くなると、酸素の摂取量が上がります。酸素の摂取量が上がると、酸欠状態にあった組織、細胞にも酸素が行き届くようになります。これだけで、身体は間違いなく改善します。

あなたはおそらく、この事実を家族や友人に伝えたいと思っているはずです。ぜひ教えてあげてください。ここで得られた情報は、あなたの知人の助けとなるはずです。







出典:小池義孝『ねこ背は治る!』




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