クマ撃退スプレー
『カウンターアソールト』
"Grizzly Tough" Pepper Spray
COUNTER ASSAULT
from: OUTBACK TRADINGI COMPANY 2016 Catalog
カウンターアソールトが誕生したのは、カウンターアソールト社の創業者、ウィリアム・J・ポンド氏が、バイクに乗って一人で放浪の旅をつづけていたときの、ある恐ろしい出来事がきっかけでした。
モンタナ州にはいり、グレイシャー国立公園にほど近い、ハングリーホース・ダム湖畔でキャンプをしていたときのことです。ウィリアム氏はグリズリーベアに、実際に襲われてしまいました。夜に到着した彼が、熟したハクベリーの繁る、クマの餌場のド真ん中にうっかりテントを張ってしまったのが原因でした。
その恐ろしい体験がきっかけとなり、ウィリアム氏は放浪の旅に終止符をうち、クマの攻撃を防ぐ方法の研究を、モンタナ大学のクマの研究者チームと共同ではじめたのでした。
カウンターアソールトの研究は、モンタナ大学のグリズリー研究チームによって、1981年に着手されました。そのリーダーのチャールズ・ジョンケル博士(モンタナ大学名誉教授)は、30年間で1,000頭以上のグリズリーベアやアメリカ黒熊、ホッキョク熊などの調査を手がけた、国際的に有名な研究者です。
6年間にわたる300回以上のテストで(そのうち77回は、実際にグリズリーベアが人を威嚇しているか、攻撃を仕掛けようとしたときにスプレーを噴射し、すべて追い払いに成功)、その素晴らしい効果が実証されています。しかも、製造元のカウンターアソールト社によって、現在も日々、改良がつづけられています。
日本では1987年、秋田県の大平山で、カウンターアソールトが初めて使用されました。使用したのは、アメリカ人のクマ研究家、テリー・ドミコ氏です。
アジアのクマを研究するために来日したドミコ氏は、クマの生態を研究していた米田一彦氏に案内されて入った秋田県大平山で、樹洞から突然飛びだしてきたツキノワグマに、アメリカから持参したカウンターアソールトを噴射して撃退しました。
このエピソードは、そのとき居合わせた動物写真家の大家、田中光常氏の著書『動物への愛限りなく(世界文化社)』の中でも紹介されています。
次にドミコ氏は「のぼりべつクマ牧場(北海道)」を訪れました。
そして、ヒグマ博物館学芸員の前田菜穂子氏と共同で、カウンターアソールトをヒグマに噴射する忌避実験をおこないました。その結果、カウンターアソールトは日本のヒグマにも忌避効果があることが、日本で初めて確認されました。
このように、カウンターアソールトは「ツキノワグマ」と「ヒグマ」にも撃退効果があると、専門家によって確認されている唯一のクマ撃退スプレーです。
その後、米田一彦氏は、調査地を秋田県から広島県に移し、環境省からの委託で、絶滅が危惧されていた西中国山地ツキノワグマ個体群の調査を開始しました。
米田一彦氏はこれまでに、ツキノワグマに6回ほど攻撃をうけたことがありますが、カウンターアソールトでいつも撃退しています。詳細については米田一彦氏の著書『山でクマに会う方法(山と渓谷社)』、『ツキノワグマのいる森へ(アドスリー)』、『生かして防ぐクマの害(農文協)』をご一読ください。
【知床でのクマ撃退スプレーの使用事例】
日時:2011年7月15日 午後8時15分頃
場所:北海道斜里町 漁港内
天候:晴れ
風速:0.2m/s
ヒグマとの距離 30〜40m
岸壁の上でヒグマを発見した私は、ハシゴで突堤へ降りた。
同時にヒグマの突進がはじまった。
夜間のため、ヒグマの姿や行動は細かく監視できなかったが、事前に突進の予兆を見出すことはできなかった。ヒグマとの距離はおよそ30〜40m。印象的なのは、その唸り声である。突進のリズムに合せて、短く、野太く発せられる呻きにも似た唸り声は、なんとも形容し難く、ヒグマが相当な興奮状態に追いやられていることを感じさせた。
その際、わたしは「非常にまずい状況に陥った」と感じた。漁港という特殊な環境にくわえ、夜間という悪条件が重なった。なによりも、私は幅2mほどの突堤の上にいて、両側は海と垂直の岸壁である。逃げ場はなく、行動の選択肢もほとんどない。同時に、過去の経験から「ブラフチャージ(威嚇突進行動)であり、突進が止まるかもしれない」という機体もあった。
ヒグマとの距離 20m
激しい唸り声とともに黒いシルエットと光る眼がちかづく。
かなり大型の個体であると推定された。冷静さを心がけるが、コントロールの難しい恐怖感に身体が支配されつつあった。左手に強力なスポットライト、右手にスプレー(カウンターアソールト)をすでに準備している。
「オイ! オイ!」と声をだしながら、後ずさりを開始する。これは意図したものというよりは、ほとんどクマの勢いに威圧されての反射的なものである。途中からは、ほぼ横向きに小走り状態になっていた。
ヒグマとの距離 10m
突進は止まらない。
いままでのケースと異なる危険な状況に陥ったことをハッキリと認識した。また、この突進が「威嚇ではない」と判断せざるを得なかった。
この段階でスプレー(カウンターアソールト)を使用することに決め、安全ピンを抜いた。ギリギリまでクマをひきつけ、効果が期待できる至近距離で噴射をおこなうこととした。これは中途半端な距離で使用することにより、クマの興奮をさらに高めるてしまうことを懸念したものである。また、2度目、3度目の攻撃の可能性を考慮して、スプレーの使用量を抑える意図もあった(スプレー連続噴射時間、7〜10秒)。
精神的な動揺はピークであったが、明確な行動が決まることで、若干の落ち着きを取り戻す。右手のスプレーを左手のライトと取り違えないように、改めて確認した。
後ずさりをやめ、クマに正対した。
ヒグマとの距離 3m
向かってくるクマの鼻先に狙いを定めて、スプレー(カウンターアソールト)を噴射。クマの顔面が白い煙につつまれると同時に、クマが180°反転し、尻が見えた。
「効いた」と確信した。
クマはそのまま一挙に後退。
噴射時間は5秒程度であるが、最初の2秒程度で効果があり、後半3秒は念のために長くスプレーを噴射しつづけた。風はほとんどなく(風速0.2m/s)、むせたりすることはなかった。
スプレーはまだ2/3ほど残っており、次回の攻撃に備えて、構えは崩さなかった。
その直後、応援車両が横づけされ、とりあえず緊急の事態を脱したことを確認した。
[カウンターアソールトを使用した職員(30歳)による話、おわり]
カウンターアソールトは、その多くの実績と、科学的なデータを元に「クマの追い払いに効果がある」と、アメリカで正式に認められているクマ撃退スプレーです。
IBA(国際クマ協会)でも、カウンターアソールトでクマの追い払いに成功した実例や研究が、これまでに多くの研究者から発表されています。EPA(米国環境保護局)からも登録されている商品です。
カウンターアソールトの主成分は、天然の赤唐辛子(Cayenne Pepper)から抽出した唐辛子エキス(カプサイシン)です。320万SHU※の超激辛な刺激で、クマの興奮を鎮め、クマの攻撃能力を追い払うわけです。
※SHU…スコビル熱単位(Scoville Heat Units)。辛さの基本単位として最も多く使用されている単位のこと。ちなみに、甘いバナナは0(ゼロ)SHU、日本で人気の高いハバネロ(Red Savina)は57万7,000SHU、世界一辛い Naga1 Jolokia Pepper が85万5,000SHUです。
カプサイシンは食品として利用されており、人や動物の体内に入っても害はありません。ただし、ガス状になったカプサイシン(CA)を浴び、吸い込むと、目や鼻、ノドの粘膜が焼けるように痛み、呼吸機能にも影響します。効果は短時間つづくだけで、毒性はありません。
2006年春から発売した「カウンターアソールト・ストロンガー」は、約10m(通常品は9m)、連続して約9秒(通常品は約7秒)、噴射することが可能です。
【危機管理 第1段階】
クマと遭遇した場合に備える
慌てず騒がず、落ち着くことが肝心。
クマとの距離が離れていて、クマがあなたに気づいていない場合は、静かにその場から立ち去る。
クマは100mを7秒台で走る能力があると言われている。木登りも泳ぎも達者である。このことを念頭にいれて行動すること。
至近距離で突然クマと遭遇し、クマから威嚇や攻撃を受けた場合の危険な行為は、急に立ち上がる、大声で叫ぶ、大きな音を出す、物を投げつける。これらの行為は不用意にクマを刺激して、逆に攻撃を誘発させる可能性が高い。
急に背中を見せ、走って逃げることは、自殺行為と同じで非常に危険。狩猟本能を呼び覚まされたクマは、反射的に追いかけて来る。最近のクマは鹿を襲って食べることもある。
あなたがクマに敵意をもっていないことを伝える。動かずにジッとしていること。「急」のつく行動はしない。クマが立ち去るまで静かに待つ。
子グマの近くには必ず親グマが隠れている。子グマしか見えないからと、不用意に近づくのは自殺行為である。また、親グマと子グマの間にはいってしまったら、確実に攻撃を受けるので注意すること。
【危機管理 第2段階】
クマが接近、攻撃してきた場合
カウンターアソールトを噴射して、クマを追い払う。
荷物や服を、クマとあなたの間に捨て、クマの関心がそれに移ったスキに、静かに逃げる。ただし、中には人間に異常に興味をもっているクマもいるので注意が必要。
「死んだふり」をしても助からない。クマは好奇心が強いので、あなたを噛んだり引っ掻いたりします。クマに攻撃をうけ、何も対処する方法がない場合の、最後の手段が「死んだふり」である。凹地があれば凹地に伏せ、頭や首筋、腹部などを腕で保護し、ダンゴ虫のように丸くなり、できるだけダメージの少ない体勢で、クマが攻撃を止めて立ち去るまでじっと耐え抜く。ただし、クマが付近にまだ隠れている場合もあるので注意する。
【クマ撃退スプレーを適切に使用するために】
1. スプレーをいつでも取り出せる場所に装着すること。
クマの攻撃や突進という行動に対処する場合、決定的に重要なのは「使用できる状態のスプレーが手元にある」ということ。常にスプレーをすぐに取り出せる位置に装着しておくこと。さらに、パニックになっても無意識で取り出せるよう、いつも同じ位置に同じ向きでスプレーを装着しておくことが望ましい。
2. スプレーの使用について、事前トレーニングが必要。
スプレーの使用方法は難しいものではない。しかし、切迫した状況下の恐怖や焦りといったヒューマンファクターを考慮すれば、
- スプレーをホルダーから抜き、
- ピンを外し、
- 適切な距離でクマに対して噴射する
という一連の流れを確実におこなうことは予想以上に難しい。クマの突進がはじまってから、スプレーを取り出していては間に合わない。また、発射のタイミングや射程距離は経験しなければわからない。
実際にスプレーを試射するという、実際の使用を想定したトレーニングが必須と考えられる。また、スプレーを装着するたびに、スプレーの位置とホルダーから引き抜く手順を実際に確認しておく癖をつけるようにすることをお勧めしたい。