2020年3月6日金曜日

データ記録装置としてのDNA[Scientific America]


from Scientific America



DNAは二重らせん構造をしていて、一方の鎖の塩基配列がわかれば、対となる鎖の配列も自動的にわかるので、情報の保存に最適だ。

またDNAは長期間安定しており、情報の完全性と正確さを維持できる。一例を挙げると、8,100年前の人骨から分離されたDNAが2017年に解析された。この遺物は理想的とはいえない状態で保存されていたものだ。低音で乾燥した環境で保存さていれば、DNAが何万年ももつのはほぼ確実といえる。情報を完全な状態で正確に維持できる。

だが最も魅力的な特徴は、DNA二重らせんが非常に稠密な構造に折りたたまれるという点だ。人間の細胞には直径約0.00001mの細胞核があるが、一個の細胞核の内部にあるDNAをまっすぐに伸ばすと長さが2mに達する。別の言い方をすると、一人の人間の体内にあるDNAを全部つなげると100兆mになる。

2012年に科学者が試算したところによると、理論上はたった1gのDNAに455エクサバイト(4,550億ギガバイト)のデータを保存できる。この情報記録密度はハードディスクの物理的記録密度の100万倍だ。






様々な分野でDNAが情報の生成・追跡・記録に使われるようになった現在、いずれは在来の電子的記録装置に対抗してデジタルデータの保存に使われるのだろうかと問うのは自然な疑問だ。

現時点での答えはノーだ。最新のDNA記録システムよりも、ハードディスクやフラッシュメモリーのほうが情報の保存にはるかに優れている。

だがすべての技術と同様、在来の電子デバイスにも限界がある。物理的な空間を専有し、特定の環境条件を必要とする。最も耐久性に優れたものでさえ、寿命は数十年だ。こうした問題を考えると、私たちが現在作り出しているデータすべてを保持し続けるのは遠からず困難になるかもしれない。

これに対しDNAは、低温・乾燥環境で保存すれば、ほぼ確実に数万年はもつ。低温条件を必要とする研究室ではDNAを-20℃ないし-80℃で保管するのが当然になっているし、通常の電子機器が耐えられない高温での保存も可能だ。スイス連邦工科大学チューリヒ校のグラス(Robert Grass)とスターク(Wendelin Stark)は2015年、シリカに封入したDNAがエラーを生じることなく70℃の高温に一週間耐えられることを示した。

また、ハードディスクは1平方インチ(6.45cm2)あたり1テラバイトの情報を記録できるものの、最近の試算によると、全世界で生成された情報すべてをわずか1kg足らずのDNAに保存することが理論的には可能だ。



J.E.ダールマン
DNAストレージ
世界の全情報をタマゴ1個に
日経サイエンス2019年11月号(北極融解/BMIで拡張する身体) 

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