2020年3月4日水曜日

北極圏の海氷に関して[Scientific America]


from 日経サイエンス

特集:北極融解

北極圏は劇的に変化しつつある。北極海では海氷減少と気温、海水温の急上昇が続いている。今後も海氷減少は止まらず、早ければ2030年代後半には夏場の北極海から海氷がほとんどなくなる可能性がある。






北極海では海氷が減り続け、気温は地球全体の平均の2倍以上の速さで上がっている。2030年代末には氷がほとんど消える可能性がある。



年平均気温の上昇幅を産業革命以前をベースに算定すると、地球全体では約1℃なのに対し、北極域では3℃近くに達する。



「今年(2019年)9月中旬の北極海の海氷面積は、観測史上最小を記録した2012年9月ほどにはならないかもしれないが、史上3~4位くらいにはなるだろう(菊池隆・海洋研究開発機構)」



北極域の海氷の最大面積と最小面積は年ごとにかなり変わるが、長期的に見れば減少し続けている。年間で最大近くなる3月1日時点の海氷面積を例に取ると、1980年代の平均で1,557万平方kmだったのが、2010年代の平均では1,405万平方kmまで縮小した。

日本国土面積の4倍の海氷が消えた計算だ。



一方、年間で最少近くなる9月1日時点の海氷面積は、1980年代の平均が738万平方kmだったのが、2010年代の平均で455万平方kmにまで縮小している。

実に日本8つ分近くの減少で、減少幅は夏の最小面積の方が冬の最大面積よりも倍近く大きい。



ちなみに2012年に観測史上最小値が記録されたのは、同年9月15日と16日の両日で318万平方kmだった。






海氷面積の年間最小値の推移を見ると、2010年代は以前よりも減少ベースが鈍っている。そのため、海氷減少は一息ついているのではないかと考えがちだが、それは違う。

「海氷の厚さは減り続けていると見られる(菊池)」からだ。



「以前は年齢が4~5年以上で、厚さが3~4mの海氷が北極海を広く覆っていたが、最近は海氷の融解が進んだり、北極海から出ていく氷が多い年があったりして、年齢が1~2年で厚さ2mに満たない海氷の割合がとても多くなった。海氷は面積が縮小しているだけでなく、年齢が若く薄くなっている(菊池)」



北極圏の海氷減少は、北極の気温が地球全体の平均の2倍以上のペースで上昇していることと表裏一体だ。出発点は地球温暖化で、気温が上がると海氷が減り、海氷が減るとさらに気温が上がるというサイクルが繰り返されることで、気温上昇と海氷減少が増幅されている、と菊池は話す。

このフィードバック機構を「アイス・アルベド・フィードバック」という。

アルベド(反射率)は地球表面での太陽光の反射率を意味する。海水面が約10%と最も低く、地面が約20%、これに対して雪や氷で覆われた場所は低くても85~90%で、ススや塵などの汚れが少なければ、それ以上になる。

逆に言えば海水面は太陽光の約90%を吸収し、地面は約80%、氷雪面では15%以下になる。

北極海での状況を考えると、まず地球温暖化で気温が上がれば、太陽が照り続ける白夜の夏場、海氷の融解が進み、海氷面積が縮小する。その分、氷に覆われていな海面が広がるため、北極海はより大量の太陽光を吸収、海水温が上昇する。






「以前は海水温がそれほど高くなかったため、気温が下がればすぐに氷が張り始めていた。ところが近年の夏は以前より海水温が高いため、まずは海水が冷えないと氷ができない状況になっている。夏の海氷減少によって、秋の氷のでき始めが遅れることで、作られる海氷が減ってきている」。

このような秋から冬にかけての海氷形成の遅れが、冬場の海氷面積の縮小をもたらし、それが冬場の気温上昇を引き起こす。

太陽が昇ってこない真冬、北極海の気温はマイナス20~30℃まで下がるが、海氷がない海面の温度は約0℃で、大気より20~30℃も高いため、海面から立ち上る水蒸気が大気を暖める。海氷面積が縮小した分だけ、水蒸気による加熱が強まるので、気温の低下が抑制される。

そうした状況で次の春を迎えると、前年の春先より気温は少し上がり、海氷面積は小さくなる。そして白夜の夏に向けて日照時間が長くなるにつれ、気温が上昇して海氷の融解が進むため、夏場の海氷面積は前年よりさらに縮小し、海水温が上がる。

こうしたサイクルが毎年繰り返されることで、北極海では海氷減少とともに気温上昇が増幅されることになる。



ちなみに南極は広域が氷で覆われている点は北極と同じだが、南極の平均気温の上昇ペースは、北極とは逆に地球全体の平均よりもかなりゆっくりだ。

南極には大陸があり、その上に厚さ2,000~2,500mもの氷が乗っているので、夏場に氷がいくら融解しても海水面や地面は出てこないので、太陽光の反射率は変わらない。

そのため、北極のようなフィードバックは働かず、気温の上昇が増幅されることはない(ただし、氷の融解は進むので、海水面の上昇など別の面で大きな変化が起きている)。






海氷減少のきっかけとなった地球温暖化は大気中の二酸化炭素(CO2)による温室効果が強まっていることが原因だ。



「CO2濃度は少なくとも40万年前まではたかくても280ppm程度だったが、現在は人類活動由来の部分が自然界の変動に加わり400ppmまで上がっている」。



「北極海の海氷減少について言えば、今すぐにCO2の排出を全部やめても、変化はもう止まらない。残念ながら臨界点を越えてしまったと思う」。



「地球全体の気温が2100年までに2~3℃上がるといわれているが、北極は8~9℃、もしかすると10℃も上昇する可能性がある」。



グローバルな気候変動に与える影響も甚大だ。地球大気は赤道域で加熱され、極域で放熱して冷えるが、南極は変動が穏やかな一方、北極で最も激しい温暖化が起きている。地球全体でみた場合、北極が変化の中心になっているわけだ。

その影響が強く出ているのが、北極域に隣接した北半球の中緯度域、つまり欧州や米国、日本が位置する緯度帯だ。これらの地域に異常気象をもたらすジェット気流の蛇行は北極の変動がその一因と考えられる。



「日本に暮らす人々にとって、北極海は縁遠い場所だが、実際には密接なつながりがある」



ノルウェーのスバールバル諸島は急変している。1971年に比べ、冬は7℃暖かく、2ヶ月短くなった。雪に代わってかつては稀だった雨が降り、ゆるんだ土壌をたびたび水浸しにして、建物はぬかるみに沈降している。





日経サイエンス2019年11月号(北極融解/BMIで拡張する身体)

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