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その日も、木村は参考資料を探していた。
何軒か町の書店を回って、ようやく見つけた目当ての本は、書棚の最上段にあった。木村は横着をした。踏み台を探すか、店員を呼ぶべきだったのだが、ちょうどいい具合に、そこに棒が置いてあったのだ。
「その棒でさ、トラクターの本をつっついたわけ。そしたらよ、隣の本も一緒になって2冊落ちてきた。あわてて拾ったら、隣の本のカドが潰れてしまっていたの。それで、しょうがないから、その本も一緒に買ったの。
これは『損したなぁ』と思って、家に持って帰ってからも、しばらく放っぽらかしにしておいたの。ちゃんと読んだのは、それから半年後か一年後か、もう忘れてしまったけどよ。暇だったときにかなにかに引っ張り出してみたの。
本のいちばん最初のところに、
『何もやらない、農薬も肥料も何も使わない農業』
と書いてあった。あぁ、こういう農業もあるのかなと。自分でやるやらないは別としてな、同じ百姓として興味がわいてきたのさ。
それから何回、その本を読んだかわからない。
本が擦り切れるほど読んだ。
福岡正信さんの書いた『自然農法』という本でありました」
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