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その畑の主が、カマドケシという、津軽弁の最悪のアダナで呼ばれているのは、仕方のないことだったかもしれない。
その畑のリンゴの木には、果実がほとんどついていない。葉の数も奇妙なくらい少なかった。夏だというのに、すでにかなりの葉が落ちている。
なぜ?
農薬を散布しないからだ。この6年間というもの、畑の主はリンゴ畑に一滴の農薬も散布していない。この何年かは花も咲かなくなった。
カマドケシは「竈(かまど)消し」だ。一家の生活の中心である竈を消すとは、つまり家を潰し家族を路頭に迷わせるということ。
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男の目はただひたすら、一匹の害虫の動きを追いかけていた。
その日、男が熱心に見つめていたのはシャクトリムシだ。
男は朝からずっと、そのシャクトリムシの行動の一部始終を、リンゴの木の下で飽きもせずに眺めていた。
「あんまり葉っぱ喰うんでないよ」
虫にそんなことを言い聞かせている。
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