2020年9月9日水曜日

腐らないリンゴ

 


シェフの井口さんが、リンゴをきざみながら呟きます。


「腐らないんですよね…」


厨房で、2年前から保存されていた、2つに割ったリンゴ。


通常、リンゴは切ったまま置いておくと、すぐに茶色く変色し、やがては腐ってしまいます。しかし、その「木村さんのリンゴ」は腐ることなく、まるで「枯れた」ように小さくしぼんでいました。


「農薬も肥料も使わず、たわわにリンゴを実らせる」


そんな農家がいる。


その農家、木村さんの作るリンゴは、農薬どころか有機肥料も一切使わず、そして「腐らない」といいます。




木村さんは、とにかく「よく笑う人」でした。

自分で冗談を言っては笑い、誰かの言葉に笑い、そして辛い思い出を話していても、最後はなぜか笑うのでした。


そのリンゴは、私がこれまで食べていたものとは「まったく違う果物」でした。

噛むとパリンと音がしそうなほど、しっかりとした歯ごたえ。強烈な甘味と酸味。まさに、木村さんが「樹(き)の実」と呼ぶのにふさわしい、野生の味でした。




「奇跡のリンゴ」まえがきより

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