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シェフの井口さんが、リンゴをきざみながら呟きます。
「腐らないんですよね…」
厨房で、2年前から保存されていた、2つに割ったリンゴ。
通常、リンゴは切ったまま置いておくと、すぐに茶色く変色し、やがては腐ってしまいます。しかし、その「木村さんのリンゴ」は腐ることなく、まるで「枯れた」ように小さくしぼんでいました。
「農薬も肥料も使わず、たわわにリンゴを実らせる」
そんな農家がいる。
その農家、木村さんの作るリンゴは、農薬どころか有機肥料も一切使わず、そして「腐らない」といいます。
木村さんは、とにかく「よく笑う人」でした。
自分で冗談を言っては笑い、誰かの言葉に笑い、そして辛い思い出を話していても、最後はなぜか笑うのでした。
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そのリンゴは、私がこれまで食べていたものとは「まったく違う果物」でした。
噛むとパリンと音がしそうなほど、しっかりとした歯ごたえ。強烈な甘味と酸味。まさに、木村さんが「樹(き)の実」と呼ぶのにふさわしい、野生の味でした。
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「奇跡のリンゴ」まえがきより
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