『週刊エコノミスト 2016年03月29日号 』より
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マイナス金利の源流は、「減価する貨幣」というアイディアのなかに見ることができる。ケインズの『雇用、利子および貨幣の一般理論 』に「Stamp Duty on money」という、銀行券に印紙税(stamp duty)を課すタイプのお金がでてくる。
これはもともと、ドイツの思想家・実業家のシルビオ・ゲゼル(1862〜1930年)が『自然的経済秩序 』のなかで唱えたアイディアで、通称「ゲゼル通貨」といわれるものだ。
「ゲゼル通貨」の仕組みは、当時、アメリカの1ドル札の裏にたくさんのマス目を切り、そこに毎週、印紙を貼っていくというもの。マス目には日付が書いてあり、時間がたつほど印紙が増え、その札の価値が徐々に下がっていくようにする。こうしてお金に「マイナスの利回り」をつけて減価させる。
ゲゼルの主張は、端的にいえば次のようなものだ。
すべてのモノは置いておけば劣化し、サービスは取っておけない。どんな財・サービスも時間とともにどんどん価値が下がっていく。つまり、つくって置いておくと不利になる。逆にいうと、お金だけが価値が劣化しないという特権がある。この特権が曲者だ。物価が下がっているときは、お金が有利になりすぎてしまう。すると貯蓄が増えて、その分お金が流通しなくなり、景気が悪化する。だから、モノの劣化に対応させてお金も劣化させたほうがバランスはとれる
とゲゼルは考えた。ゲゼル通貨に対してはケインズも「未来はマルクスよりゲゼルから多くを学ぶだろう」と、一定の評価を与えた。
過去をみると、「減価する貨幣」を導入した事例がある。
中央政府が導入したケースはないが、アメリカやカナダでは一時、州政府などが発行していた。背景には景気悪化があった。当時、州政府の借金は禁止されていたが、自動的に価値が下がる債権なら問題ないだろうということで、公共工事の対価として手形のような秋紙幣を発行し、景気を刺激した。これら州紙幣はたとえば、価値は毎年10%ずつ下がるが、法的に自由に使え、税金の支払いもできる形で価値を担保した。数年たてば価値がゼロになる債権なので、借金にもならない。また、この州紙幣を持つ人は、使わないと価値が減るので、どんどん使おうとする。
このほか、ドイツの鉱山、オーストリアの都市でも、同様の紙幣が使われた。
だが、こうした「減価する紙幣」は、通貨の国家独占に反するとした中央銀行の命令によって禁止された。国家にとってはシニョリッジ(通貨発行権益)が脅かされるからだ。
減価する紙幣は姿を消したが、人を雇って公共投資をおこない、生産を呼び戻すという限定的な効果はあった。いままた、日欧で「マイナス金利」が出現し、ケインズの予言通りとなった。
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引用:週刊エコノミスト 2016年03月29日号 [雑誌]
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