話:野々村直通
たとえばメジャーリーグでは、ホームランを打った打者が派手なガッツポーズをしながらベースを一周すると、次の打席で頭部へのデッドボールを狙われると聞きます。対戦相手への敬意を欠くことで、倍返しされるわけです。
私が高校野球の監督だったとき、ヒットを打って拳を突き上げて喜ぶ選手には、厳しく怒っていました。自分だけで打ったのではない。みんなが打たせてくれたのだ、と。もちろんスポーツでは、瞬間的に体で喜びを表現してしまうことがあります。だから、選手たちには「ガッツポーズはベルトよりも低い位置でしなさい」と指導していました。
自分自身の態度にも気をつけていました。私は監督として、夏の甲子園の島根県予選で7回優勝しています。優勝直後にはメディアのみなさんから「グラウンドで胴上げを」とリクエストされます。もちろん私にも思い切り喜びたい気持ちはあります。それでも、胴上げはすべて断ってきました。
なぜなら、グラウンドには敗れたチームがまだ残っているからです。最後の甲子園を目指して努力してきた対戦校のことを考えると、彼らの目の前で胴上げをすべきではないし、それがスポーツマンシップだと思いました。私が胴上げされることで良い写真を撮れるかもしれません。しかし、写真に写らない部分には、悔し涙を流している選手がいるのです。
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出典:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2014年 3/13号 [雑誌]
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