2014年6月13日金曜日

敵をつくっておいて敵をつくらない [内田樹]




話:内田樹





基本的に武道では、相対的な稽古をしてはいけないことになっています。自分と同じレベルにいる敵に対しての勝った負けた、強い弱いを競っては絶対にいけない。競うものではなく「場を主宰する」。敵を作らないで、あらゆるものとパッと和合してしまう。

敵味方は、いわばボルトとナット。戦ってどちらが強いというのではなく、ボルトとナットが接合することで、全体があるかたちで機能しはじめる。

ですから武道における身体運用というのは、身体の局所を強くするとか、速く動くとか、いわんや相手を倒すのではない。自分と相手が対峙する状況全体をいかにコントロールするかというところが肝要なんです。そのためには、目の前の人と敵対してはいけません。一瞬にして呼吸を合わせ、細胞の肌理(きめ)を会わせていかなくては。

人間はさまざまな模様のパッチワークに似た、非常に複合的な存在です。だから相手の中には部分的に自分と同じ模様もある。その同じ模様にパッと同期できるような、感度のいい身体をつくるための訓練が武道なんです。

武道の場合、最初にわざと「敵対」というネガティブな状況をつくっておいてから同期させるところが、条件としては面白いと思います。








出典:内田樹『日本の身体



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