〜話:小林秀雄〜
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ドガが慰みに詩を作っていた時、どうも詩人の仕事というものは難かしい、観念(イデ)はいくらでも湧くのだが、とマラルメに話したら、マラルメは、詩は観念で書くのではない、言葉で書くのだ、と答えたと言う。
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詩人は、ありの儘(まま)の言葉を提げて立っている。彼は、言葉に関して、決して器用な人間ではない。みんなそう思っているが、詩人に関する最大の誤解である。彼は実は、原始人なのだ。音や形や意味が離れ離れになっていない、一つの言葉、それは例えば目の前の一枚の紅葉の葉っぱの様に当たり前であり、ありの儘だ。これだけを信じて疑わぬ事が、そんなに難かしい事なのであろうか。やはり難かしい事らしい。
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出典:小林秀雄「
栗の樹 (講談社文芸文庫)」
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