2016年10月3日月曜日

大陸移動という「たわごと」



話:V.S. ラマチャンドラン





20世紀のはじめ(1912年)、ドイツの気象学者アルフレッド・ヴェゲナーは、南アメリカ大陸の東岸とアフリカ大陸の西岸が、巨大なジグソーパズルのピースのようにぴったり「あう」ことに気づいた。また、「メソサウルス」という淡水性の小型ハ虫類の化石が地球の2ヶ所、ブラジルと西アフリカだけで発見されることにも気づいた。

淡水性のトカゲがどうやって大西洋を泳いでわたったのだろうとヴェゲナーは考えをめぐらせた。この2つの大陸は遠い昔には一つの巨大な陸地だったのが、のちに分かれて離ればなれになったとは考えられないだろうか。






この着想に夢中になった彼は、さらに証拠をさがし、恐竜の化石が散在するまったく同じ岩層がアフリカ大陸の西岸とブラジルの東岸にあるのを発見した。

これは説得力のある証拠だが、驚いたことに地質学界はこれをはねつけた。「いまは沈んでいるが昔は2つの大陸をつなぐ陸橋があり、恐竜はそこを歩いてわたったにちがいない」というのが地質学界の見解だった。

1974年という近年においてさえ、英ケンブリッジのセントジョンズ・カレッジの地質学の教授は、わたしがヴェゲナーのことをもちだすと、首を横にふり、「まったくのたわごとだ」と怒気をふくんだ声で言った。






しかし私たちはいまでは、ヴェゲナーが正しかったことを知っている。

かれの説がしりぞけられていたのは、単に、大陸全体が浮動する原因となるようなメカニズムを、人々がまったく想像できなかったからだ。私たちみんなにとって自明のことがあるとすれば、それは大地が安定していることだ。

しかしプレートテクトニクス --どろどろした熱いマントルのうえを動く固いプレートに関する研究-- が知られるようになると、ヴェゲナーの説は信頼できるものとなり、万人の承認を勝ちとった。






この話の教訓は、ある考えを、それを説明するメカニズムを思いつくことができないという理由だけで、奇異な考えとしてしりぞけてはいけないということだ。

そしてこの理屈は大陸にも遺伝にも、イボにも想像妊娠にもあてはまる。なんといってもダーウィンの進化論が提唱され、ひろく受け入れられたのは、遺伝のメカニズムが明確に理解されるずっと前のことだった。









引用:V.S.ラマチャンドラン『脳のなかの幽霊』




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