2013年2月22日金曜日
達人・塩田剛三の「タコとスジ」
「おい、ハサミもってこい」
合気道の「塩田剛三」館長は、ひと月半に一度はハサミで「足の親指のタコ」を切っていた。そして、そのたびに内弟子にハサミを持って来いと命じるのだった。
「ハサミぐらい、いつも館長室に置いておけばいいのに…」
内弟子だった頃の安藤師範は、ハサミを持っていくたびに、内心そう思わずにいられなかった。
ある時、内弟子たちの中で、「身体を転回する時、足のどの部分を中心に回転すればいいのか?」が議論されていた。
さまざまな意見が飛び交う中、「あっ…! 館長のあのタコこそ、その中心なんじゃないか?」と安藤師範は閃いた。
館長のタコは、足の親指の付け根の横にあった。安藤師範はハサミを持っていくたびに、その位置を自分の目で確認していた。
「ひょっとしたら、それを教えるために、わざわざ我々にハサミを持ってこさせて、タコの位置を見せてくれていたのでは?」
またある時、お風呂で塩田館長の三助(背中流し)をしていた安藤師範は、館長の腰から脇にかけて「グッと盛り上がった独特のスジ」があることに気が付いていた。
「館長以外に、あのスジがあれだけ発達している人は見たことがない。きっとあのスジは合気道の極意につながる大事な要素に違いない」
そう思った安藤師範は、その脇のスジを鍛えるために、自転車のチューブを引っ張ったり試行錯誤して鍛えてみた。
しかし、いっこうに「そのスジ」は浮かび上がってこない。どうやら、そのスジはやはり筋肉ではなく、スジのようだ。
「私自身に、このスジが浮かび上がってきたのは、ここ10年ぐらいのことですね」と安藤師範。
じつはこの脇のスジ、合気道の稽古を積み重ねていくと、自然に出てくるものであったらしい。
「基本動作を長年繰り返し、なおかつ肩に力が入らないようにしていくと、この脇のラインの意識ができてくるんです」と安藤師範。
その脇のスジがあってこそ、肩に力が入らず胸が開き、構えが変わってきて、技の効果も違ってくるのだそうだ。
出典:月刊 秘伝 2013年 02月号 (特別付録DVD付)[雑誌]
「塩田剛三館長と安藤毎夫師範」
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