2015年11月22日日曜日
汗、大用現前 [平澤興]
〜話:平澤興〜
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暑くなりますと、誰しも汗をかきます。
「大変汗が出てありがとうございます」と喜んでおる人はないと思うのでありますが、医学的に申しますと、汗が出るので温度の調節ができるのであります。我々の全然知らん間に温度が上がれば自然に汗が出るような仕掛けになっているのであります。
若さにもよりますし、人にもよりますが、1〜2リットルくらいの汗が一日に出ております。だいたい50〜60kgの身体の人で1リットル汗を出しますと、体温にしまして10℃くらい下げる放熱量があります。36℃の人がもし汗が出ないとすれば、それだけで死んでしまうかもしれません。
そう思ってみますと、汗そのものはそうありがたいことではないのでありますが、汗を出すという働きは大切です。実は汗だけではありません。汗腺といえども、広い意味の内臓であります。要するに内臓というものは、そんな具合に暑ければ暑いように、ちゃんとしかるべく働いてくれるわけであります。
禅語に
大用現前(だいゆう・げんぜん)
という言葉があります。
天地宇宙の真理というものは、そんなに変わるものではなくて、現に落ち着いて見れば、そんなに心配するようなことはない、皆あるべき姿にあると、そういう言葉だそうであります。
永平寺の道元禅師が、これでは難しくてわかりませんから、日本の歌につくりかえて、
水鳥の ゆくもかえるも あと絶えて
されども道は 忘れざりけり
と詠んでいます。
水鳥は帰ってしまって跡はなくなるが、それで結局また道を間違えないでちゃんと戻っていく。そんなようなもので、細かなことにこせこせしなくても自然には自然の道があるというような意味のようであります。
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同じ解剖学者でも、卒業してしばらくの間は、本に書いてあることが一通りわかれば、一通りわかったような錯覚を起こします。私自身もそういう時代がありました。
しかし勉強すればするほど、心臓や肺はもちろんでありますが、ただそれらをつくる一つの細胞の構造もわからなくなってくるのであります。毎年、細胞の構造などについてノーベル賞を与えられておりますが、なるほどノーベル賞といえばすごい研究でありますが、自然の生命から考えたら、全くその中の
"針の頭のような点"
のことでしかないのであります。
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引用:『致知』2015年12月号
平澤興「人間、この不思議なるもの」
平澤興 講話選集『生きる力』より
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