2014年8月26日火曜日

読書亡羊 [荘子]




臧與穀二人相與牧羊、而倶亡其羊。

臧(ぞう)と穀(こく)と、二人相い与(とも)に羊を牧(か)いて、倶(とも)に羊を亡(うしな)う。

臧と穀とが、二人でいっしょに羊飼いをしていたが、二人ともその羊を逃がしてしまった。



問臧奚事、則挾筴讀書。問穀奚事、則博塞以遊。

臧に奚(なに)をか事とせると問えば、則ち筴(さく)挟(わきばさ)みて読書す。穀に奚をか事とせると問えば、則ち博塞(はくさい)して以て遊ぶ。

臧は何をしていたかというと、簡策(しょもつ)をかかえて読書をしていたのだし、穀は何をしていたかというと、賭けごとをして遊んでいたのだ。



二人事業不同、其於亡羊、均也。

二人の者、事業はからざるも、其の羊を亡うに於いては均(ひと)しきなり。

この二人のものは、していた事こそ同じでないが、羊を逃がしたという点では同じである。








出典:荘子 外篇  駢拇篇 第八




2014年8月11日月曜日

「時計はあるが、時間がない」…ブータン人が見たニッポン




話:辻信一



わがブータン人の友、ペマ・ギャルポが来日した。

関東から関西へ、そして南九州へと旅をしながら、ペマは各地で講演を行った。回を重ねるごとに舌は滑らかになり、話にも磨きがかかる。たとえばこんな調子だ。

「日本人はとにかく忙しい。いつも時間がないと言っている。日本人は世界最高の時計をつくるが、肝心の時間がない。ブータン人は時計をつくれないが、時間だけはたっぷりある」



各地で日本の印象を問われた。

「失礼を承知で正直に答えます。大都会では、日本人は人間というよりロボットです」

乗り物の中で寝ている人が多いことに、まず驚いた。

「私はこれまで、立って寝るのは馬だけだと思っていたが、日本では人間もやっている」



起きている人は皆、携帯に釘付けだ。

「携帯が現れる前は、耳も目ももっと安らかで、口も鼻も幸せだったのではないか。一年に一日でもいいから、携帯を使わない日を定めたらどうでしょうか。かつてご先祖さまたちが、何を見て、何を聞き、何を嗅いでいたかを思い出すきっかけになる」

そして、こう付け加える。

「ブータンには、”幸せの5つの扉”という言葉があります。足、手、口、耳…。その扉を通じて世界を歩く、感じる、味わう、見る、聴く。一体それ以上に何が必要でしょうか?」



彼の口癖は、「生まれる時も死ぬ時も、この身一つ」。

「ブータンでは、足るを知ることこそが、幸せの鍵だと考えています。欲望に駆られるほど、私たちは不幸せになっていくのです」








出典:BE-PAL (ビーパル) 2014年 07月号 [雑誌]
辻信一「本物を生きている者たち 〜to」