日曜美術館
アートシーンより
犬塚勉絵画展より
キャンバスが草でほぼ埋め尽くされた頃、突然振り向き
「ひょっとすると真実を見つけたかもしれない」
と 真顔で語り出す。
「人を描かずして人を感じさせる。それも緑一色の絶妙なグラデーションで。人が、きれいな景色だ、と言うのとはまったく違う感覚で私は感動している」
『梅雨の晴れ間』
1986
『梅雨の晴れ間』犬塚勉 |
描きたいのは「風景」ではなく「自然」である
圧倒的な自然のみを描く
山へ、森へ、徹底的に歩き回ろう
犬塚勉
自然と一体化するように絵をかきたい。そう願った犬塚は、山に登り、体で感じとった自然の息吹そのものを描こうとしました。
犬塚勉絵画展より
自らシャッターを切った写真をイーゼルの右端に貼る。しばらくじっと眺め、一気に描き始めた。
瞬く間に北岳からの稜線が浮かび上がり、清々しい大気が画面に広がる。
翌朝にはすべての石から光が放たれ、あっと息をのむようだった。
『縦走路』
1986
『縦走路』犬塚勉 |
「自然より自然である風景
中途半端な自然人ではいけない
徹底的な自然人でなければならない」
犬塚勉
身を削り精神を研ぎ澄ませて自然を描き、 ひたむきに山に登り続けた。
体力の限界に近い山行をくりかえす。
厳しい登山者のみに許された風景との出会い
鋭い観察者のみが見出しうる景色
それを絵画で表現する
犬塚勉
「自然」の何に魅かれているのかを探究するほどに、彼の登山は厳しさを増していった。
人が「生き、かつ死に得る」決定的な視覚体験を描きたいと願う。
「死の淵に己を追いつめ、やっと出逢うことの許される世界を体験せねばならない」
犬塚勉
犬塚の絶筆。
『黒く深き渓谷の入り口Ⅰ』
1988
「ただひたすら美しい
そして深い自然を想わせる
描いて、描いて、描きまくって
最後に色つきの水をこぼすとかして仕上げる」
犬塚勉
『黒く深き渓谷の入り口Ⅰ』犬塚勉 |
「岳人」2012年9月号より
渓谷をモチーフに「暗く深き渓谷の入口」を制作中の1988年9月23日
「もう一度、水を見てくる」
と家族に言い残して谷川連峰の赤谷川本谷に入渓。悪天候につかまり、稜線に抜けたところで遭難。二度と絵筆を握ることは叶わない、38 歳の、あまりに突然の死だった。
ザックに遺されていたのは
砕けたラーメン
大型カメラ
そして、真紅のモミジであった。
ソース:
犬塚勉絵画展
岳人 2012年 09月号 [雑誌]
日曜美術館アートシーン 犬塚勉「永遠の光、一瞬の風」
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