2016年9月22日木曜日

トースター・マラソン [ディーン・カーナゼス]



話:ディーン・カーナゼス





パンが焼けてトーストになる温度がある。

その正確な温度はわからないが、そんな温度のなかを走るのは賢明ではないだろう。





最初に履いたランニングシューズは、アスファルトのあまりの熱さで、1時間もしないうちに底が溶けて壊れてしまい、さっそく2足目に履き替えた。

他の選手たちを見て、道路の縁にある白線の上を走ることを学んだ。白線が熱を少し反射してくれるため、2足目のシューズは少なくともすぐ溶けずにすんだ。

しかし白線の上を走っていても、路面から反射してくる猛烈な熱はまるで高炉のようだった。



まだ12マイル(19km)しか走っていないところで、足はすでに水ぶくれになってしまった。15マイル(24km)目には水ぶくれの上にさらに水ぶくれができてしまい、もうどうしようもなく、ランニングシューズをズタズタに切って簡易サンダルをつくって履いた。

これで少し楽になった。

涼むために便利だと聞き、霧吹きを持参したのだが、氷がないとほとんど役に立たず、ノズルから出てくる水は体に届く前に蒸発してしまった。



話によれば、今年初め、道路の横で丸焼け状態で死んでいるヨーロッパの観光客が発見された。

彼はどうやら写真を撮るために外を歩いていたようだ。検視報告書によると、遺体の足の損傷が著しく、どうやら彼は熱湯のようなドロ沼に両足で踏み込んでしまい、抜けられなくなってそのまま焼け死んでしまったようだ。

彼も霧吹きを持っていたらしいが、まったく無意味だった…。






30マイル(48km)地点で嘔吐がはじまった。

その後、痙攣と重症な脱水におちいった。まだレースの4分の1も走ってなかったが、すでに大変なことになってしまった。

父がクルマの窓から、「何か食べてみるかい?」と聞いた。

「そうだね。もうこうなったら何でも試してみるよ」

父がウインドウを開けて、ピーナツバターとジャムサンドイッチを渡してくれた。受け取って数100m走り、気分は悪いが一口でも食べようと思い、ようやく口に入れるとパンがトーストになっていた。

”父はなんでこんなところにトースターをもってきているのだろう?”

と思った瞬間、今、オーブントースターの中を走っているんだ、と気がついた。



午前1時。この馬鹿げたレースのスタートから42マイル(67km)離れたストーブパイプウェルズに到着した。

ときおり転がってくる枯れ草や、不毛の砂漠を吹き抜ける風の音以外、あたりの道は暗くて静かだった。たどり着いたのは真夜中だったが、真っ暗にもかかわらず、気温は華氏112度(44℃)だった。

その日は鳥が空から落ちてくるほど暑かったらしい。








引用:ディーン・カーナゼス『ウルトラマラソンマン』




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