2015年4月10日金曜日

がんじがらめの土地利用 [The Economist]



「土地を買え(Buy Land)」

かつてマーク・トウェイン(米国の作家)は言った。



その理由は

「新しい土地がつくられることはないから」

"They're not making it any more."

つまり、土地には希少価値(scarcity)がある、と言ったのだ。



実際、ロンドン(イギリス)やムンバイ(インド)、ニューヨーク(アメリカ)などの大都市では現在、土地の価格が跳ね上がっている。その旺盛な需要(rampant demand)に対して、土地の供給が限られているからだ。

ロンドン中心部、メイフェア地区の住宅物件(residential property)は、高いもので1平方メートルあたり5万5,000ポンド(約1,000万円)。マンハッタンの住宅地1平方マイル(約2.56平方km)の価格は165億ドル(約2兆円)だ。香港の土地の実勢価格は、ここ10年間で150%上昇している。







大都市における土地不足に加え、その値を吊り上げているものに人為的な規制(artificial regulatory limits)がある。

『建物の高さと密度に関して規制が設けられており、これが供給を制限し、価格を吊り上げているのだ(The Economist誌)』

"Regulatory limits on the height and density of buildings constrain supply and inflate price."

LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)の分析によると

『ロンドンのウエストエンド地区では、土地活用の規制(land-use regulation)がオフィス物件の価格を約800%膨らませている。ミラノやパリでも、こうした規制が約300%も価格を押し上げている(The Economist誌)






厳しく規制されていることで建設コストがかさみ、新しいオフィスの建設はほぼ不可能(well-nigh impossible)。こうした不動産市場の機能不全(misfiring property market)は、貧しい労働者に代償を強いることになる。

『住宅価格が高いため、労働者は価格は安いが生産性の低い場所(less productive places)に住むことを強いられる。ある研究によると、サンフランシスコ付近のベイエリアの雇用は、仮に厳しい建築規制(tight limits on construction)がなければ、現状と比べて5倍の規模になっているはずだという(The Economist誌)』



規制によって失われた収入(lost earnings)。そして、活用されなかった人材の潜在能力(unrealised human potensial)。それらを合計すると目もくらむような(dizzying)金額に達する。

『アメリカの都市部の成長をはばむ障壁(barriers)をすべて撤廃した場合、同国のGDP(国内総生産)は6.5~13.5%増加する可能性がある。この増加分は約1~2兆ドル(120~240兆円)に相当する。これほどの成長をもたらす政策は、そう多くは思い浮かばない(The Economist誌)』






20世紀には一時、都市の魅力が薄まった。というのも移動コスト(transport costs)が急落したためだ。

しかし21世紀に入り、都市の魅力は復権した(revival of the city)。デジタル革命により労働者の集中(clustering of workers)が必要になったからだ。ITや金融といった産業は知識集約型(knowledge-intensive)であるため、アイディアや専門知識を共有することが成長につながる。つまり大都市にあってこそ力を増すのである。



都市の土地利用が大きく規制されたのは19世紀後半。その無軌道な都市の拡大(unconstrained urban growth)が、犯罪や病気の蔓延を招いたためだった。

しかしグリーンベルトや土地利用の規制は、20世紀を通して山のように積み上がってしまった。

『建築許可の取得は、雨降りの午後にタクシーをつかまえるよりも難しくなっている(The Economist誌)』

"Getting planning permission is harder than hailing a cab on a wet afternoon"






ロンドンでは、新たな建築がセントポール大聖堂の眺め(views of St.Paul's Cathedral)をさえぎることを許さない。

シリコンバレーでは、グーグルの社宅で飼われるであろうペットが、付近に棲むフクロウの群れ(local owl population)を脅かすかもしれないという理由から、いまだ建築許可がおりていない。



『エコノミストの好きにさせたら、ニューヨークのセントラルパークもあっという間に舗装されてしまう(The Economist誌)』

"Give economists their way, and they would quickly pave over Central Park."

公的空間(pablic spaces)と街の歴史遺産(a city's heritage)は、最新の注意を払って開発に取り組まなければならない。しかしそのせいで、地域エゴの強い人々(nimbyish residents)が新たな建築計画を次々と阻止してしまっている(駐車スペースから照明の明るさまで!)。



活気あふれる都市ほど持ち家率(the home-ownership rate)が低いのはなぜか?

沈滞傾向にあるデトロイト都市圏の持ち家率が71%。好況に沸くサンフランシスコのそれは55%。つまり、家の所有というのはそれほど平等なものではない。

『大都市で家を持つ人を増やすためには、高層ビルを林立させる必要はない。サンフランシスコでは今の2倍の人口を抱えることも可能で、それでもマンハッタンと比べると人口密度は半分ほどにとどまる。アメリカの全人口はテキサス州の面積に十分に収まるはずで、その場合でも各世帯には1エーカー(4,000平方メートル強)以上の土地が行き渡る(The Economist誌)






本来、都市の規制(zoning codes)は社会的利益とコストのバランスを図るために編み出されたはず。しかし、歪んだ土地規制は、土地の所有者(land owners)を肥えさせ、彼らの資産(property)は盤石となるばかり。

エコノミスト誌は言う。

『政府は地価に対する課税を強化すべきだ』

"Government should impose higher taxes on the value of land."

『地価は脱税が難しい。土地をルクセンブルクの銀行の金庫にしまっておくことはできないからだ』

"They are difficult to dodge; you cannot stuff land into a bank-vault in Luxembourg."






とはいえ、都市計画の改善や地価税は、どちらも実施は容易ではない。政治的な障壁までクリアするのは並大抵のことではない。

『それでも、その厄介な問題を解決した者に1兆ドル(約120兆円)規模のメリットをもたらすような問題は、ごくわずかである(The Economist誌)』

"Few offer the people who solve them a trillion-dollar reward".

『世界の巨大都市では土地が有効に活用されておらず、多大な損失を招いている』

"Poor land use in the world's greatest cities carries a huge cost."













(了)






ソース:
The Economist「Urban land; Space and the city
JB press 「都市の土地問題: 成長のために空間を活かせ






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