2015年4月23日木曜日
日本の「デザイン」の勘違い
「アップルのデザインはすごい」
よく、そう言われる。
パッケージまでが美しい。
アップルストアの陳列は芸術的だ。
後藤鉄兵「アップルはパッケージに関しても徹底しているんです。アップルは『パッケージに関するレギュレーション』を細かいところまで決めているんです。アップルは写真の見せ方から外周サイズ、厚みまで完璧に決めています」
その厳しいレギュレーションは、自社製品のみにとどまらない。他社製品にも厳格な要求が突きつけられる。「うちは赤いパッケージでいきたいんだ!」などと言っても決して許されない。
道家剛史「アップルの恐ろしいところは、他社製品にまで『同じレギュレーション』を求めてくるところですね。iPhone ケースひとつとってみても、メーカーなんて星の数ほどあるわけですよ。パッケージだって当然いろいろです。だけど、一度『アップルストアに置く』となったら、アップルから指示がくるわけです。パッケージのサイズはこれ、厚みはこれ、この表現はNGといった具合に」
後藤鉄兵「はっきり言って横暴ですよね(笑)」
なぜアップル社は、そこまでパッケージにこだわるのか?
後藤鉄兵「ユーザを大事にしているからです。アップルはユーザが製品を選びやすいように細かくレギュレーションを決めて、売り場を作っているのです。パッケージに統一感があるほうが、ユーザは比較検討しやすいです」
もし「小売店の声」を優先させれば、パッケージは小さくなる。その方がたくさん置けるからだ。逆に「販売メーカーの声」を優先させれば、パッケージは大きくなる。その方が目立つからだ。
たとえば日本では、販売メーカーの声が大きい。その結果、家電量販店のアクセサリ売り場は「キラキラしたシールがたくさん貼られたパッケージ」でごちゃごちゃになってしまっている。ユーザはどれを買っていいか迷うばかりだ。
後藤鉄兵「世界中にアップルストアがありますが、言語や文化が違っても、おそらくアップルのパッケージや広告はどの国でも『同じ雰囲気』で統一されているはずです。そのように徹底されているんですね」
道家剛史「パッケージって、商品の中身を伝えることだけじゃなく、『雰囲気を伝える』という大事な要素もあるんですよね」
なぜ日本のメーカーは、アップルのようなパッケージ・デザインができないのか?
後藤鉄兵「そもそも日本では、『デザイン』という言葉が誤解されているからです。デザインっていうと、誰もが製品の見た目のことだと思いますよね。それは違うんですよ。見た目は『グラフィック』、つまり意匠です。デザインというのは、製品をどこで売って誰が使うのか、競合はどうしているのか、だったら自分たちはどういう『コンセプト』を打ち出すべきなのか。それらを考えるのがデザインなんですよ。見た目っていうのは、その最後の結果に過ぎないのです」
同「日本のメーカーがパッケージのデザインを決める場合って、おそらく複数のパターンをつくって、そこから『お偉いさんの意見』を集めて皆が納得いくものをつくる、みたいなやり方をしているのでしょう。デザインを頼むとき、『とりあえず3パターンつくって出してみて』とか、意味がわからない。『え、まさか、そこからお偉いさんが選ぶつもりなの?』って思いますよね」
同「デザインをデザイナーにお願いするってことは、『デザイナーが決定権をもつ』ということなんです。パッケージ・デザインを決めるのはデザイナーであって、ほかの誰でもない」
道家剛史「そういう意味では、スティーブ・ジョブズ(前アップルCEO)はデザインをしていたってことなんです。実際に手を動かしていたのは彼じゃないかもしれないけど、アップル製品のデザインをしていたのはジョブズなんです。だからアップル製品やアップルストアなどのデザインは、明確な統一感があるのです」
日本のメーカーがすべて駄目なわけではない。
たとえば「AndMesh(アンドメッシュ)」
この製品のパッケージは洗練されている。
ボール紙のフタにマグネットがついている。
道家剛史「アンドメッシュのパッケージは紙製だし磁石も使っているしで、よく『原価が高いでしょ』って言われるんですが、実のところは通常より安いんです(笑)」
この道家氏、AndMesh(アンドメッシュ)のデザイナーだ。
同「なぜ原価が安いのかというと、AndMesh のパッケージ、折ってるだけで組み立ててないんですよ。折るのは機械で自動化できますが、組み立てる場合は人の手でないとできないので、人件費が発生するんですね。海外製の安い iPhone ケースのパッケージも、実はこの組立コストが発生しているので、中国で作らざるを得ないんです。中国と日本の何が違うって、金型費と人権費ですから」
アップル製品のアクセサリの95%、海外製に占められている。そんな中、道家氏は頑なに「Made in Japan」で日本の技術力を世界に示そうとしている(あらゆる行程を日本国内で完結)。
同「日本でモノづくりしている人は、よく『日本はコストが高くてパッケージができない』って言うんですね。でも、それは違うんです。やりかた次第でコストは下げられるんです。金型が高いなら『製品を絞り込めばいい』し、人件費が高いなら人間の手がなくてもできるよう『機械で自動化できる製品をつくればいい』。そういった工夫をしているからこそ、僕らは100% Made in Japan でやれているわけです」
デザインとは何か?
それは製品の外観だけを意味しない。外観はデザインの一部、コンセプト(内面)の結果にすぎない、と道家氏は言う。
どうやって作るのか?
どうやって売るのか?
いったい何を伝えたいのか?
日本のデザイン観が表面的である一方、世界のデザインは奥が深い。
日本と世界における「デザイン」は、かくも異なっているようだ。
(了)
ソース:MacFan 2015年 05月号 [雑誌]
パッケージとデザイン「垢抜けない日本のアクセサリ」
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