話:岡希太郎(金沢大学コーヒー学講座講師)
巷(ちまた)では、コーヒーは体に良いという情報もあれば、体に悪いから飲まないといった意見も根強くあり、一体どちらを信じればよいのか疑問を抱いている方も少なくないようです。
コーヒーに関して昔からよく言われてきたのは、飲むと目が冴えて夜眠れなくなる、トイレが近くなるといったことです。コーヒーが体に悪いというイメージは、主にこの2つからきているようです(あるいは、妊婦・授乳婦が飲むのを禁じられたりすることも、ネガティブなイメージに結びついているようです)。
これらはいずれも”カフェイン”が悪者になっています。しかしながら最近では、カフェインはパーキンソン病やアルツハイマー病などの神経病、そしてガン全般に効果があることが明らかになっています。私がコーヒー研究をはじめるきっかけとなった野田光彦先生の論文には、コーヒーを飲んでいる人は、糖尿病(2型)になりにくいと書いてありました。
また、ソモザ博士(ウィーン大学)は、コーヒーのカフェインと、豆を焙煎したときに出てくる”NMP(N-メチルピリジニウムイオン)”に、細胞のガン化を防ぐ効果があるという論文を発表しています。さらにツァオ教授(南フロリダ大学)は、パーキンソン病にいたる運動神経の障害をカフェインが防ぐことを説いており、同様の理由で、「神経障害の一種であるアルツハイマー病になりたくなければカフェインを摂取すべきだ」と主張しています。
コーヒー豆の成分で、病気予防の効き目に関係することが明らかになっているのは、
「カフェイン」
「クロロゲン酸」
「ニコチン酸」
「NMP(N-メチルピリジニウムイオン)」
の4つです。
「クロロゲン酸」には、抗酸化作用、食後の急激な血糖の上昇を抑える作用(糖分の吸収を遅くする作用)、副交感神経を刺激して血圧を下げる作用、肝臓や筋肉での遊離脂肪酸の分解促進などの作用があり、「カフェイン」と一緒に摂ることで、生活習慣予防に欠かせない要素となるのです。
「ニコチン酸」は、高脂血症を治療する医薬品にもなっており、ストレスが原因でおこる脂肪組織からの遊離脂肪酸の流出を抑える働きがあります。また、血管壁を保護したり、血小板の活性化を抑えて血液を固まりにくくしたりする作用ももっています。
「NMP(N-メチルピリジニウムイオン)」は、副交感神経を刺激して気分を和らげ、大腸の蠕動(ぜんどう)運動を亢進させたり、血圧を下げたりします。また、強い抗酸化作用があり、発ガン性物質の解毒にも寄与しているといわれています。
ここで、こうした健康効果を高めるための、とっておきのコーヒーの選び方をご紹介したいと思います。
それは、「深煎り豆」と「浅煎り豆」をブレンドすることです。
「クロロゲン酸」は熱に弱いため、その分解を防ぐためにはコーヒーを焙煎するさいに浅煎りに留める必要があります。しかし、浅煎りでは得られないのが「ニコチン酸」と「NMP」です(生豆に大量に含まれているトリゴネリンが、熱を加えることにより変化して生じる成分だからです)。
要するに、浅煎りと深煎りをブレンドして飲むことによって、4つの成分がそれぞれにもつ病気予防の効果をまんべんなく享受することができるわけです。浅煎りと深煎りの豆の両方を入手したら、それを「1:1」にブレンドして飲めば、コーヒーの有効成分をまとめて摂ることができるのです。
では、コーヒーを「飲む量」についてはどうでしょう。一日何杯までなら大丈夫かというのは、気になる人も多いと思います。
あくまでも各人の体質や体調によって異なりますが、一日にコーヒーカップ「4杯」くらいまでなら、おおむね安全と考えてよいでしょう。
たとえば、一日に飲むコーヒーの量と脳卒中になるリスクの関係でいえば、1杯、2杯とコーヒーの量を増やしていくにつれてリスクは下がり、4杯のときに最も小さくなります。それを超えると逆に上昇してゆき、9杯に達すると薬事法によるカフェイン摂取量の上限に達します。
最後に、健康を意識した美味しいコーヒーの淹れ方をご紹介しましょう。
○ 浅煎りと深煎りを1:1にブレンドしたコーヒー10gを用意する。
○ 90℃以下のお湯で、ゆっくり抽出する(布または紙のフィルター)。
○ 最初に出てくる50ccを飲む。
最も美味しいのは「最初に出てくる50cc」までで、そこに有効成分の90%以上が入っているのです。その後から出てくるのは雑味で、抽出すればするほど不味くなります。
ちなみに、こうして抽出したコーヒーの有効成分は一日は持ちますので、私は朝淹れておいたものを、夕方にも温めて飲んでいます。
…
出典:
致知2014年4月号「コーヒーで病気を防ぐ」岡希太郎
0 件のコメント:
コメントを投稿