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2018年5月16日水曜日

認知症は『アロマ』で予防できますか?


From:
週刊東洋経済 2016年10/8号



浦上克哉
『認知症予防のQ&A』






認知症予防に、アロマは効果があるのですか?


認知症では、物忘れがはじまるよりも先に、匂いがわからなくなる症状がよくみられる。

アルツハイマー型認知症の原因物質の一つに、アミロイドβタンパクが脳にたまると、まず嗅神経がダメージをうける。そのダメージが、隣接している「海馬」(脳のなかで記憶をつかさどる部位)にも広がり、記憶障害が起こると考えられている。

嗅神経には「適度な刺激を与えると再生する」という、とてつもない能力がある。だから嗅覚をはたらかせるほど脳が活性化する。アロマセラピーが有効なのはこのためだ。





私たちの研究では、介護老人保健施設で軽度から中等度のアルツハイマー型認知症の人をふくむ77人にアロマをもちいた調査を実施し、多くの人に認知機能の改善効果がみられた。

高齢になると、メラトニンというホルモンの分泌が減り、眠りが浅くなる。そして本来は睡眠中に分解されるアミロイドβタンパクが溜まりやすくなる。これを防ぐには、昼間は活動的に過ごし、夜はゆっくり休んで、生活のリズムを整えることが大事だ。

私たちの研究グループは、アロマオイルの使い分けで生活にメリハリをつけ、いい睡眠につなげる方法を提唱している。



昼間用のオイルは、集中力や記憶力を向上させ、交感神経を刺激するブレンドにしている。ローズマリー・カンファーとレモンの組み合わせがベスト。日中はアロマペンダントやシート(パッチ)をもちいて連続使用する。

夜間は、副交感神経を刺激し、リラックスしてぐっすり眠れるよう、真正ラベンダーとスイートオレンジの組み合わせがよい。就寝の一時間もど前から、芳香器をもちいて寝室全体に香りをひろげる。

本来、メラトニンの分泌をうながすには、昼間に日光をあびるのが理想的。しかし外出がままならない高齢者もいるだろうから、手軽に利用できる点でアロマは有用なツールである。





何歳ごろから予防を考えるべきでしょうか?


認知症の発症は、大部分が65歳をすぎてから。ところが認知症の6~7割をしめるアルツハイマー型において、アミロイドβタンパクが溜まりはじめるのは、発症の20~30年前だとわかってきた。

逆算すると、40~50代の段階から積極的に予防に取り組めば、認知症になる人をもっと減らせるようになり、発症の時期をさらに遅らせることができると私は考えている。





From:
週刊東洋経済 2016年10/8号


「楽をしたければ『直後に思い出せ』これが記憶の鉄則である」


From:
週刊東洋経済 2016年10/8号




篠原菊紀
『効率的な記憶術 7つのワザ』


ポイント1
覚えようとせずに、直後の思い出す


記憶には、

①覚える=記銘
②覚えておく=保持
③思い出す=想起

の3つの段階がある。3つは本来は別々の働きで、脳のなかで働く部位も違っている。しかし、記憶の神経ネットワークとしては一体化して働いている。記憶するとは、このつながりを強固にすることである。神経ネットワークの部分部分だけをつくることはできないのだ。

だから、何かを覚えたいのならば、一方通行でやみくもに詰め込もうとせず、いったん情報を入力したら「思い出す(想起する)」ところまでしておくことが肝要だ。


米ワシントン大学の研究グループが実施したこんな実験がある。

2つのグループに「およそ250の単語からなる文章を記憶する課題」を与えた。片方のグループは7分間記憶し、さらにもう7分間を記憶する時間にあてた。もう一方は、7分間記憶し、7分間を覚えた文章をできるだけ「書き出す」ことにあてた。それから両グループに確認テストをした。

作業直後である5分後には、「記憶、さらに記憶」のグループのほうが成績がよかった。ところが2日後は「記憶して書き出す」のグループのほうが良好な成績だった。これは1週間後でも同じだった。


脳は、インプットよりもアウトプットを重視する。「出力依存性」をもつ。

記憶に深く関係する海馬は、思い出したり、使ったりすると、それが自分にとって大事なことだと判断するようで、それだけしっかり覚えようとしてくれる。

資格試験の試験勉強でも、単に読んで、蛍光マーカーをひくよりも、読んだ直後に目をつぶって思い出してみたほうが、長く頭のなかに定着する。受験勉強ならば、チェックテストを多用したり、誰かに説明したりすることだ。記憶を引き出すことが効果をうむ。

楽をしたければ、直後に思い出せ。これが記憶の鉄則である。






ポイント2
覚えようとせず、すぐに使う

効率よく記憶するためには、「直後に思い出す」とならんで「直後に使う」ことが大事である。

2011年にサイエンス誌に掲載された有名な論文がある。

短い科学論文を、大学生200人に5分間、読んでもらった。その後、大学生を4つのグループに分け、

「読んだ後に何もしない」
「10分間、何度も繰り返し読む」
「10分間で内容をまとめるコンセプトマップをつくる」
「10分間で読んだ内容に関する自由なエッセーを書く」

を課した。

1週間後にどれだけ記憶しているかのテストをしたが、その前に記憶に対する自信をたずねた。被験者には「すごく自信がある」から「まったく自信がない」まで、自信の度合いを回答してもらった。

「何度も繰り返し読んだグループ」が最も高い自信を示す一方で、「エッセーを書いたグループ」は自信が最も低かった。

結果が興味深い。論文の中身をたずねる質問でも、そこに書かれたことから類推しうる事項をたずねる関連質問でも、成績が最も良かったのは「エッセーを書いたグループ」だった。

エッセーを書くことは、読んだ内容を思い出しながら、それを組み合わせてアウトプットしようとする行為だ。この実験からは、直後に思い出すだけでなく、直後に思い出しつつ使うと、「記銘、保持、想起」のネットワークが強化されることがわかった。

想起(再生)することと、「使う・組み合わせて答えを考える」ことで記憶は強固になる。なにもエッセーを書く必要はない。箇条書きのような短い文章をいくつか書くだけで効果がある。






From:
週刊東洋経済 2016年10/8号

2018年5月15日火曜日

「つまりネズミは、過去―現在―未来を認識しながら、移動しているのです」


From:
週刊東洋経済 2016年10/8号




藤澤茂義
『記憶の司令塔、海馬を解明する』


過去、現在、未来をネズミは認識している


ではエピソード記憶は海馬において、具体的にどのように形成されているのでしょうか。海馬研究の歴史のなかでも重要なものの一つに、2014年ノーベル生理学・医学賞を受賞したジョン・オキーフ、エドヴァルト・モーザー、マイブリット・モーザーによるネズミを用いた空間認識に関する研究があります。

オキーフたちは、ネズミの脳内には空間認識をつかさどる部位があり、それはきっと海馬だろうという仮説を立てました。海馬には視覚や触覚、味覚、聴覚などの情報が感覚野から集められているため、これらを海馬で統合し空間認識をおこなっているのだろうと考えたのです。

そこでネズミの海馬に極小電極を埋め込んだうえで、四角い箱に入れて自由に走り回らせ、海馬のニューロン(神経細胞)の活動の様子を観察しました。

すると、箱の中で左上に来たときには、海馬のニューロンのなかでも、ある一つのニューロンが発火(興奮)し、右下に来たときにはまた別のニューロンが発火するというように、移動する場所によって、発火するニューロンが異なることがわかりました。

オキーフたちは、特定の場所にいるときに反応するニューロンのことを「場所細胞」と名付けました。つまり海馬の場所細胞によって、マウスは自分が空間のどの位置にいるかを認識しているわけです。

さらに彼らは、「場所細胞の位相前進」という面白い現象を発見します。ネズミが箱の中を場所1、場所2、場所3とどんどん移動していくと、その都度、場所細胞1や2や3が発火します。場所細胞の発火は1回で終わらず、その後もある一定の間隔で発火しつづけるのですが、そのタイミングが少しずつ前へとずれていきます。

すると場所2に来たときは、0.1秒の短い時間で、まず場所細胞1が発火し、つぎに場所細胞2、そしてこれから向かおうとしている場所細胞3の順番で発火します。自分がどこから来て、今どこにいて、これからどこへ行こうとしているかについての情報が、海馬において短い時間のなかに圧縮して表現されているわけです。

つまりネズミは、過去―現在―未来を認識しながら、移動していると考えられます。

画像:週刊東洋経済 2016年10/8号


休んでいるときも場所細胞が発火


オキーフたちによる場所細胞や、場所細胞の位相前進の発見の後、今度は米国のデイビッド・フォスターという研究者が、ネズミが箱の中を走り回るのをやめて体を休めているときも、場所細胞の発火が再生されているのを見つけました。

しかもこのときには、場所細胞5→4→3→2→1というように、逆の順番で、時間的に圧縮されて再生されていることがわかりました。

これはネズミが箱の中を走り回った経路を思い出し、覚えようとしているということだと推測されます。エピソード記憶は海馬のなかで、こうやって形成されているわけです。これは人間もほぼ同じであると考えられています。

興味深いのは、場所細胞の圧縮再生の活動は、睡眠中にも見られることです。記憶の定着にとって、睡眠は非常に大切であるということです。エピソード記憶はマウスよりも犬や猫、チンパンジーや人間というように、脳の進化につれて、より高次かつ複雑な記憶を形成し、維持することが可能になっていきます。




From:
週刊東洋経済 2016年10/8号



藤澤茂義
『記憶の司令塔、海馬を解明する』

2018年5月9日水曜日

人間とサルにしかない細胞【感情の小さな秘密】


From:
レイ・カーツワイル
シンギュラリティは近い






人間の脳のもっとも複雑な能力――わたしはこれがもっとも決定的なものだと思う――が、感情に関わる知能だ。

われわれの脳の複雑で相互に連結された階層の最上部に不安定に位置するのは、さまざまある高次の機能の中でも、感情を知覚し適切に反応し、社会的な状況において互いに交流し、道徳観をもち、冗談を理解し、絵画や音楽に感情的に反応する能力だ。

知覚や分析のより低次の機能が脳の感情のプロセスに送り込まれているのは確かだが、脳のこの領域についての理解はようやく始まったばかりであり、こうした問題を扱う特殊なタイプのニューロンのモデル化も着手されつつある。

これらの新たな洞察は、人間の脳が他の哺乳類の脳とどのように異なるのかを理解しようとした研究から最近になって得られたものだ。人間と他の哺乳類との間の差異はごくわずかではあるが決定的なものだというのが、その答えである。

その違いから、脳がどのようにして感情やそれに伴う気持ちを処理するのかを知ることができる。違いのひとつに、人間にはより大きな皮質がある、という点がある。そのために、計画や、判断、その他の形の分析的な思考を行う能力が高くなっている。

もうひとつの重要な違いを表す特性は、感情をかきたてる状況が、紡錘細胞と呼ばれる特殊な細胞で処理されているらしい、ということだ。この細胞は、人間と、数種類の類人猿にしか見つかっていない。この神経細胞は大きく、先端樹状突起と呼ばれる長い組織をもち、それが、他の多数の脳の領域から入ってくる広範な信号とつながる。

こうした類いの「深い」相互連結、つまり、ある種のニューロンが多数の領域にわたる連結を確保している、という特徴は、進化の梯子を上に登るにつれ、ますます多く目につくものだ。このように感情や道徳判断の処理に関わっている紡錘細胞が、深い相互連結の形態をもっているということは、われわれの感情的な反応の複雑さに鑑みれば、驚くことではない。

ところが、驚くべきことは、この働きを担う脳の領域もそもそも小さいが、紡錘細胞がその中にごくわずかしかないことだ。人間の脳にはおよそ8万個しかない(右半球に約4万5千、左半球に約3万5千)。左右の半球で数に差があるのは、感情的な知能は右脳の領分だとする認識を裏づけるものに思われる。ただし、その差はわずかであるが。

ゴリラにはこの細胞が約1万6千個あり、ボノボには約2,100個、チンパンジーには約1,800個ある。残りの哺乳類には、この細胞はまったくない。



アリゾナ州フェニックスにあるバロー神経学研究所のアーサー・クレイグ博士は、最近、紡錘細胞の構造についての論考を発表した。

皮膚や筋肉や器官やその他の領域にある神経など、身体からの入力(毎秒数百メガビットと推定)が、上部脊髄に流れ込む。これらの入力は、手触りや温度、酸の量(筋肉中の乳酸など)、胃腸管を通る食物の動き、この他さまざまな種類の情報を、メッセージとして運んでいる。

このデータは、脳幹と中脳を通じて処理される。ラミナ1ニューロンと呼ばれる重要な細胞が、最新の状態を反映した身体マップを作成する。これは、航空管制官が飛行機の経路をたどるのに使う図に似ていなくもない。

そのあと情報は、後腹内側核(VMpo)と呼ばれる豆粒ほどの大きさの領域に流れ込む。ここは、身体の状況にたいして複雑な反応を計算するところだ。たとえば、「まずい味だ」とか、「くさいぞ」とか、「この軽いタッチが刺激的」とか。

ますます高度になった情報は、大脳皮質の中の、島(とう)と呼ばれる2つの領域にたどりつく。小さな指くらいの大きさのこの構造は、皮質の左右にそれぞれ位置している。クレイグは、VMpoと2つの島の領域を「モノ的なわたしを表すシステム」だと描写する。

メカニズムはまだ解明されていないが、これらの領域は、自己認識や複雑な感情にとって非常に重要なところだ。他の動物のこれらの領域は、ずっと小さい。たとえばVMpoは、マカクでは砂粒ほどの大きさだし、もっと下等な動物ではさらに小さい。

こうした発見は、われわれの感情は脳の中でも身体マップをもつ領域と密接に関連している、とするアイオワ大学のアントニオ・ダマシオ博士が提唱し、広く受け入れられつつある考え方と一致している。さらにまた、われわれの思考の多くは、身体に向けられていて、身体を保護し強化するとともに、身体の無数のニーズや欲求に応えている、とする見方とも一致している。

つい最近、もともとは身体からの感覚情報として生じたものが、さらにまた別のレベルの処理を施されている事例が見つかった。

2つの島の領域から発せられたデータは、前部島皮質と呼ばれる右島の前方にある小さな部分に向かう。ここは紡錘細胞のある領域であり、fMRIのスキャンから、愛情や怒りや悲しみ、性的な欲望などの高次の感情を覚えるときには特に活発になることが明らかにされている。紡錘細胞が強く活性化される状況には、被験者が恋人を見たり、自分の赤ん坊が泣く声を聞いたりしたときなどがある。

人類学者たちは、紡錘細胞は1千万年前から1千5百万年前に、いまだ発見されてはいない、サルと初期のヒト科の共通の先祖の中に初めて登場し、およそ10万年前あたりにその数を急速に増やした、と考えている。

おもしろいことに、紡錘細胞は新生児には存在せず、4ヶ月目ぐらいになってようやく出現しはじめ、1歳から3歳までのあいだに著しく増える。子どもが道徳的な問題を考えたり、愛情などの高いレベルの感情を察知したりする能力は、これと同じ時期に発達するものだ。

紡錘細胞は、長く伸びた先端樹状突起が脳の他の多くの領域と深く相互連結することからパワーを得ている。したがって、紡錘細胞が処理する高次の感情は、知覚や認識に関するすべての領域の影響をうけていることになる。よって、紡錘細胞が接続している多数の領域のモデル化を改善しないかぎり、紡錘細胞の正確な働きのリバースエンジニアリングは難しいだろう。

それにしても、感情に専門で関わっているこうしたニューロンの数が、これほど少ないとは驚きだ。技能育成に関わるニューロンは、小脳のなかに500億あり、知覚や合理的な計画のための変換をおこなうニューロンは大脳皮質のなかに数10億あるというのに、高次の感情をあつかう紡錘細胞が、たったの8万個ばかりとは。

銘記しておくべきは、紡錘細胞は合理的な問題解決をおこなわない、ということである。音楽に反応したり、恋に落ちたりするのを、合理的にコントロールできないのはそれゆえである。だが、脳の残りの部分は、謎の多い高次の感情をなんとか理解しようと懸命に努力している。



From:
レイ・カーツワイル
シンギュラリティは近い



決断する0.3秒前には…【意識の幻想】


話:レイ・カーツワイル
シンギュラリティは近い





人間の脳のもうひとつの重要な特性は、予測を立てる能力だ。これには、みあずからの判断や行動の結果を予測することも含まれる。予測は、大脳皮質の主要な機能だと考える科学者もいる。ただし、小脳も、運動の予測においては大きな役割を果たしている。

興味深いことに、われわれは、自身の判断を予測したり予期したりすることができる。カリフォルニア大学デーヴィス校の生理学教授ベンジャミン・リベットは、ある行動を開始させるニューロンの活動は、脳がその行動をとろうと決断する約3分の1秒前に実際に起こっている、ということを明らかにした。

これは、決断したつもりのことも、そのじつ幻想であるにすぎず、「意識はループから外れている」〔意識が「決断」する前に脳が命令している〕ということを意味している、とリベットは言う。

認知科学者で哲学者のダニエル・デネットは、この現象を次のように解説している、「行動はもともと、脳のある部分でとつぜん引き起こされ、信号が筋肉に飛ばされるものなのだが、途中で一息入れて、意識の代理人であるあなたに、なにが起きているのかを教えてくれる(ただし、気が回る役員よろしく、いばりくさった社長のあなたが、自分がそれを始めたのだという幻想をもてるようにしてくれる)」

これに関連した実験が最近行われた。神経生理学者が、脳各地点を電子的に刺激して、特定の感情を誘発させた。被験者はすぐに、そうした感情を覚えた理由を説明した。左右の脳の連結がなくなった患者は、片側の脳(たいていはしゃべるのが上手な左側)が、もう片方が身体に出した脳の指令によって生じた行動について、あたかも左脳が右脳の広報担当者であるかのように、手の込んだ説明(「作話」)をでっちあげる。このことは、もうずいぶん以前から知られている。





From:
レイ・カーツワイル
シンギュラリティは近い

2018年4月30日月曜日

思考によって脳はどう変化するのか?【脳の記憶術】


話:レイ・カーツワイル




脳スキャンが、樹状突起スパインの成長や、新シナプスの形成を検知できるほどの高解像度を達成したことから、われわれの脳が、文字どおり我々の思考を後追いすべく、成長し、適応していくさまを目にすることができる。

これにより、デカルトの格言「われ思う、ゆえにわれあり」の意味に新たなニュアンスが加わった。



アラバマ大学のエドワード・タウブは、手の指からの触覚入力の評価をつかさどる皮質の領域を研究した。

楽器の演奏経験のない人と、弦楽器の演奏家とを比較すると、右手の指の操作をつかさどる脳の領域に差異は見られなかったが、左手の指の領域については大きな差が見られた。触感の分析につかわれる脳組織の量に比例した大きさで両手の絵を描いたなら、音楽家の左手の指(弦を押さえるほう)は馬鹿でかくなる。

弦楽器の練習を子どものころから始めた人のほうが違いは大きかったが、「40歳でバイオリンをはじめたとしても、脳の再組織化はおこる」とタウブは述べている。



「人間は、受け取る入力をもとにして、脳を作りあげていくのです」と、ポール・タラル(ラトガーズ大学)は言う。



脳が自身を配線し直すきっかけを与えるには、思考を身体の動作で表現する必要さえない。

ハーヴァード大学のアルヴァロ・パスクァル-レオネ博士は、ボランティアの人々に簡単なピアノの練習をしてもらい、練習の前と後の脳をスキャンした。ボランティアたちの脳の運動皮質は、練習の影響を直接うけて変化した。

博士はその後、2番めのグループに、ピアノの練習をしていると考えるだけで、身体の筋肉はどこも実際には動かさないよう指示した。これでも、運動皮質のネットワークには、同じくらい顕著な変化があらわれた。



マイケル・A・コリコスは言う。

ニューロンの長期にわたる変化は、1時間の学習コースのなかでニューロンが4回刺激されて初めて起こる。シナプスが実際に枝分かれし、新しいシナプスが形成され、永続的な変化がおこり、おそらくは、生涯それが続くことになる。

人間の記憶になぞらえるとこうだ。

なにかを1度、目にしたり聞いたりすると、そのことは頭の中に数分は残るだろう。重要なことでなければ、だんだんぼやけていき、10分後には忘れている。しかし、もう一度それを見たり聞いたりして、1時間の間にそれが何度も起こったら、もっと長い期間にわたってそのことを覚えていることになる。何度も繰り返された事柄は、生涯にわたって忘れないこともある。

ひとつの樹状突起に2つの結合が新たに作られたら、その結合はとても安定していて、失われてしまう恐れはまったくない。こういうものが、一生涯にわたって続くと期待できる種類の変化だ。






From:
ポスト・ヒューマン誕生 
コンピュータが人類の知性を超えるとき
レイ・カーツワイル (著)

2018年4月29日日曜日

10歳のころの記憶を忘れない理由


話:レイ・カーツワイル




ニューヨーク大学医学部の神経生物学者、ウェン・ビヤオ・ガンは、成体マウスの視覚皮質スパインを観察し、スパインのメカニズムに長期記憶が保持されうることを示した。

「たとえば10歳の子どもが、ある情報を保存するのに1,000個のニューロン間結合をつかっているとします。その子が80歳になったとき、いかなる変化が起きていても、結合の4分の1はまだ存在しています。こういうわけで、子ども頃の体験をずっと覚えていられるのです」

ガンはさらに説明をつづける。

「学習して記憶するにあたって、新しいシナプスをたくさん作って古いシナプスを捨てる必要は実際にはないだろう、というのが我々の考えでした。短期の学習や記憶のためには、すでに存在するシナプスの強度を修正するだけでいいと。ところが、長期記憶を達成するために、少数の新しいシナプスが作られたり、取り除かれたりすることもあるようなのです」

接続の4分の3がなくなっても記憶が損なわれない理由は、符号化という方法が、ホログラムの方法と似た性質をもつからのようだ。

ホログラムでは、情報は、広範囲に拡散されたパターンの中に保存されている。ホログラムの4分の3を破壊しても、解像度は4分の1にはなるが、全体のイメージは損なわれない。

レッドウッド神経科学研究所の神経学者、ペンッティ・カネルヴァによる研究からは、記憶はニューロンの集合全体を通じて広範囲に動的に分配されている、という考えが導き出されている。これでなぜ、古い記憶が「色あせ」(記憶の解像度が減少するから)ながらも持続するのかがわかる。





From:
『シンギュラリティは近い』
レイ・カーツワイル著


2018年4月28日土曜日

「嫌!」という心の反応が消えはじめると…


From:
Samga Japan Vol.29





話:バンテ・ボーディダンマ




自分以外には誰も、心理的な苦痛を自分に与えることはできないことを、まずは正直に認めなければなりません。

私たちの「dukkha(苦)」――苛立ち、不満、苦しみ――の答えは、心の中にあるからです。

この事実は、他人のせいにすることで得てきた安堵感を奪いますが、代わりに自分の心に責任を持ち、困難なことであっても、状況を解決するための力が与えられるでしょう。



私たちは、これらの感情・感覚を、機嫌を損ねた子供のように扱う必要があります。

自然界の台風と同じように、感情や感覚のエネルギーを現れるままにまかせると、エネルギーを使い果たしたあとで、自ずと消滅するものです。



仏さまは「feeling in feelings(感覚を感覚の中で)」経験するという言葉で、感覚に開いていくことを説いています。



何よりも大切なのは、自分自身が苦しみを作り出す、そのカラクリにしっかりと気づき、その気づきと認識を、苦しみを終わらせるための、さらなる動機づけとしていくことです。

これは、私たちにできることです。



瞑想中の姿勢から生じる、身体の痛みというものがあります。

膝の痛みは、過ぎ去るのを待つことができないほど、ひどい痛みになりがちです。ずいぶん昔のことになりますが、禅の修行をはじめたばかりの頃、痛みを我慢して座りつづけたことが原因で、私の膝は脱臼するクセがついてしまいました。

このようなときは無理をせず、椅子に座り、痛みがひくのを待つことも、とても大切なことです。

その一方で、脈打つ膝の痛みは、気づきや智慧にとっては、非常によき友であると言えます。何より、痛みは忍耐と寛容を教えてくれます。加えて、強い痛みは感覚への集中を助けてくれます。

そして、観察と経験を通して「痛み」が、私でも、私のものでもない「無我」であることを教えてくれます。私たちの好き嫌いにかかわらず、また私たちの意向に関わりなく、痛みはそれ自体の不満(苦)を表現するのですから。



「痛み」と、その反応としての「苦」を識別します。

この身体の痛みからくる「苦」は、仏さまが「dukkha-dukkha(苦苦)」と呼ぶ、苦痛を苦とする状態のことです。

この「痛み」と「苦」を識別することは、とても大切なことです。そして、悟りに至ったときに消滅するのは、この2つのうちの「苦」のほうだと言われています。

身体がある限り、身体の痛みは自然なこととして起こりつづけることでしょう。しかし、「嫌!」という心の反応が消えはじめると、「痛み」との新しい関係がはじまります。

痛みがあっても、完全に落ち着いた穏やかさのなかに留まりつづけることが可能になります。心の平安と静けさが、痛みが私たちを苦しめているのではなかったことに、気づかせてくれるでしょう。

痛みではなく、心の反応の仕方が「苦」をもたらしていたのです。



実際のところ、「痛み」というものは存在しません。

存在しているのは、さまざまな身体的感覚だけです。この気づきとともに、「痛い」という感覚さえもが消滅していきます。

この段階において、「無常」の真理がはっきりと認識されはじめます。あらゆる感覚が、一瞬一瞬に生じ、そして消え去っていきます。すべてが束の間に過ぎていく一連のエネルギーでしかありません。

その時には、身体の痛みは瞑想者にとって祝福となるでしょう。






From:
Samga Japan Vol.29

2018年4月27日金曜日

そこには無い「痛み」のメカニズム


From:
サンガジャパンVol.29
苦しみを癒やす「愛」の育み方
対談 小池龍之介 前野隆司





――前野先生は以前、「痛み」というものを「電気信号」という観点からご説明されていましたが、そのような見方で理解すると、どのようになりますか?


前野隆司 痛みは電気信号によって作り出されているものです。身体の痛みも心の痛みも、脳の同じような場所で感じていると言われていますね。

指を切って痛くても、指には痛覚受容器、いわゆるセンサーしかありません。つまり痛みはそこにはなく、実際は脳の感覚野の神経細胞が発火することによって、痛みを感じているにすぎないのです。

つまり、不思議なことに、痛みとは本当は存在しないものなのですよ。





小池龍之介 皆、痛みを実体であると勘違いしています。しかし、本当はそこからやってきた神経信号のデータを元に、脳が「そこが痛い」と感じるデータを出力して「その場所が痛いといういうリアリティーを出す詐欺」みたいなことを行っているにすぎないのです。

その痛い場所に、座禅をしていてありのままにじっと意識を向けていくと、脳が見せている塊のような痛みではなくて、もっと細かな電気エネルギー状の流動的感覚を感じます。電気エネルギーがピピピピピンと流れたり滞ったりしているだけで、痛いという現象は起きていないとわかってくるのです。

初心者の方であっても、「痛みを見ていてください」と言うと、痛みだと感じていたものが、何かドッドッドッという血の流れのようなものの生滅と感じられることがありあす。生滅の間には、痛くないと感じている瞬間があるとおぼろげに自覚できて、痛みがあまり気にならなくなってくる場合もあります。

もし感情を揺らさずに、その現象をもうしばらくそのまま眺めていられれば、ドッドッドッと感じられていたものが、もう少し精密にドン・ドン・ドン・ドン・ドドン・ドン・ドン・ドン・ドドン・ドン・ドンというように感じられてきます。

脳で編集されたものがここまでほどけてくれば、もう痛みとは認識できなくなります。要するに、ありのままに近づけば近づくほど、脳が作っている痛みを感じなくなるか、実はなかったのだとわかるのです。







From:
サンガジャパンVol.29
苦しみを癒やす「愛」の育み方
対談 小池龍之介 前野隆司




2018年4月22日日曜日

明るい灰色、暗い灰色【目の錯覚】




この目の錯覚は ご存じかもしれませんが
You might have seen this illusion before, 

新たな方向から 考えて頂きたいと思います
but I'd like you to think about it in a new way. 

AとBの2つの区画を 見ていただくと
If you look at those two patches, A and B, 

灰色の濃さが非常に異なって 見えるはずです
they should look to you to be very different shades of gray, right? 



でも実際は全く同じ濃さなんです
But they are in fact exactly the same shade. 

それを示すことができます
And I can illustrate this. 

第2バージョンの絵では 2つの区画を 灰色のバーで繋いでいて
If I put up a second version of the image here and join the two patches with a gray-colored bar, 

全く違いがなく見えますね
you can see there's no difference. 

灰色の濃さは全く同じなんです
It's exactly the same shade of gray. 



もしまだ信じられないなら
And if you still don't believe me, 

バーをずらして 区画に重ねてみましょう
I'll bring the bar across and join them up. 

一色の灰色の塊になり
It's a single colored block of gray, 

違いは全くありません
there's no difference at all. 



これは手品でも何でもなく
This isn't any kind of magic trick. 

灰色の濃さは同じです
It's the same shade of gray, 

でも バーを取りのけると
but take it away again, 

また違って見えるようになります
and it looks different. 



何が起きているのかというと
So what's happening here is 

脳は事前の期待を 用いているのです
that the brain is using its prior expectations 

それは視覚野の回路の中に 深く構築されており 「影がかかると 物の表面は より暗く見える」ということです
built deeply into the circuits of the visual cortex that a cast shadow dims the appearance of a surface, 

それでBが実際より 明るく見えるんです
so that we see B as lighter than it really is.



引用:

アニル・セス
Anil Seth
脳が「意識された現実」という幻覚を作り出す仕組み
Your brain hallucinates your conscious reality