2018年4月30日月曜日

思考によって脳はどう変化するのか?【脳の記憶術】


話:レイ・カーツワイル




脳スキャンが、樹状突起スパインの成長や、新シナプスの形成を検知できるほどの高解像度を達成したことから、われわれの脳が、文字どおり我々の思考を後追いすべく、成長し、適応していくさまを目にすることができる。

これにより、デカルトの格言「われ思う、ゆえにわれあり」の意味に新たなニュアンスが加わった。



アラバマ大学のエドワード・タウブは、手の指からの触覚入力の評価をつかさどる皮質の領域を研究した。

楽器の演奏経験のない人と、弦楽器の演奏家とを比較すると、右手の指の操作をつかさどる脳の領域に差異は見られなかったが、左手の指の領域については大きな差が見られた。触感の分析につかわれる脳組織の量に比例した大きさで両手の絵を描いたなら、音楽家の左手の指(弦を押さえるほう)は馬鹿でかくなる。

弦楽器の練習を子どものころから始めた人のほうが違いは大きかったが、「40歳でバイオリンをはじめたとしても、脳の再組織化はおこる」とタウブは述べている。



「人間は、受け取る入力をもとにして、脳を作りあげていくのです」と、ポール・タラル(ラトガーズ大学)は言う。



脳が自身を配線し直すきっかけを与えるには、思考を身体の動作で表現する必要さえない。

ハーヴァード大学のアルヴァロ・パスクァル-レオネ博士は、ボランティアの人々に簡単なピアノの練習をしてもらい、練習の前と後の脳をスキャンした。ボランティアたちの脳の運動皮質は、練習の影響を直接うけて変化した。

博士はその後、2番めのグループに、ピアノの練習をしていると考えるだけで、身体の筋肉はどこも実際には動かさないよう指示した。これでも、運動皮質のネットワークには、同じくらい顕著な変化があらわれた。



マイケル・A・コリコスは言う。

ニューロンの長期にわたる変化は、1時間の学習コースのなかでニューロンが4回刺激されて初めて起こる。シナプスが実際に枝分かれし、新しいシナプスが形成され、永続的な変化がおこり、おそらくは、生涯それが続くことになる。

人間の記憶になぞらえるとこうだ。

なにかを1度、目にしたり聞いたりすると、そのことは頭の中に数分は残るだろう。重要なことでなければ、だんだんぼやけていき、10分後には忘れている。しかし、もう一度それを見たり聞いたりして、1時間の間にそれが何度も起こったら、もっと長い期間にわたってそのことを覚えていることになる。何度も繰り返された事柄は、生涯にわたって忘れないこともある。

ひとつの樹状突起に2つの結合が新たに作られたら、その結合はとても安定していて、失われてしまう恐れはまったくない。こういうものが、一生涯にわたって続くと期待できる種類の変化だ。






From:
ポスト・ヒューマン誕生 
コンピュータが人類の知性を超えるとき
レイ・カーツワイル (著)

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