マルコム・グラッドウェル『逆転!』より
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革新者に求められるのは、調和性というよりむしろ「非調和性」だ。ケンカを売ったり、周囲を不快にさせるのではないが、誰もやろうとしないことにリスクを承知であえて挑戦するのだから、むしろ調和性とは対極ということになる。
それは容易なことではない。非調和な人間がいると、社会は眉をひそめる。それに人間には、周囲から承認されたい本能がある。それでも、社会を変える力がある斬新な発想を実現するには、これまでのしきたりを壊す気概が必要だ。
「他人の気分を害したり、社会に物申すことを案じているようでは、どんなに新しいアイディアも前進しない」
とピーターソンは書いている。劇作家ジョージ・バーナード・ショーもこう言った。
「合理的な人間は、自分を世界に合わせる。非合理的な人間は、あくまで世界を自分に合わせようとする。したがって、あらゆる進歩は非合理的な人間にかかっている」
その一例として、スウェーデンの家具販売店IKEA(イケア)の創業時のエピソードを紹介しよう。
創業者のイングバル・カンプラード(Ingvar Kamprad)は、家具の値段は組み立て関係がかなりの部分を占めていることに気づいた。テーブルに脚をつけると、その作業に費用がかかるし、輸送コストも跳ねあがる。そこで組み立て前の家具を平たい箱に入れて出荷し、他店より安く販売した。
ところが1950年代に危機が訪れる。安値販売を苦々しく思っていたスウェーデン国内の家具メーカーが、イケアの注文をボイコットしたのだ。窮地に追い込まれたカンプラードは、ポーランドに目をつける。バルト海を挟んだすぐ南にあり、木材資源が豊富で労働力も安い。ここがカンプラードの開放性だった。1960年代初頭には、海外生産という発想をもつ企業はまだほとんどなかった。
ポーランドでの生産拠点づくりに動きだしたカンプラードだが、その道のりは険しかった。当時のポーランドは共産主義国家で、インフラはまったく整備されていなかった。まともな機械もなく、労働者の質も低い。法律の後ろ盾もなかった。ピーターソン国際経済研究所のフェロー、アンデーシュ・オスロンドはこう指摘する。
「カンプラードはいわばマイクロ・マネジャー(部下に細々と指示を出す、口うるさいタイプの上司)です。だから他の人間が失敗した分野で成功することができた。悪条件の国に進出して、生産を軌道にのせてみせたんです。こうと決めたら絶対に曲げない性格ですよ」
これが勤勉性である。
カンプラードが凄かったのは、ポーランド進出を決断したのが1961年だったことだ。ベルリンの壁は物々しくそびえ、冷戦まっただ中。それから1年もたたないうちにキューバのミサイル危機が勃発し、あわや核戦争突入かというところまで事態はすすむ。そんな時代にポーランド進出とは、いまで言うなら「ウォールマートが北朝鮮に店を出すようなもの」だ。鋭く対立する陣営の国と商売をするなんて、ほとんどの人が想像もしなかっただろう。裏切り者の烙印を押されかねないからだ。
だがカンプラードは違った。世間の評判など微塵も気にとめなかった。これが非調和性だ。
家具を組み立てず、平べったいまま出荷する。メーカーのボイコットを受けると、海外に生産拠点を移す。こうした発想ができる人間からして少数派だ。そんな独創性に加えて、構想を実現するためには刻苦勉励を惜しまず、冷戦体制すらものともしない精神力をもつ人間となると…、めったにいるものではない。
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出典:マルコム・グラッドウェル『逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密』
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