2018年4月29日日曜日

知識の構造化とは?【小宮山宏】


話:小宮山宏




個別の研究内容を収集し関連づけることによって、新しい知識を生成する仮想例を紹介しよう。スティーブン・クレインス東大助教授の作である。


「アリスは、米国の自動車会社で燃料電池のLCA(ライフ サイクル アナリシス)の仕事をしていたが、その実用化はまだまだ先のことだと発表した。

アントンは、北海道大学の触媒研究者で、高活性な酸化触媒を発見したが、共同研究先の化学企業では用途が見つからなかった。

スーザンは、MITの薄膜研究者で、高密度膜の生成が目的であるが、実験では多孔性膜が生成されて困っていた。

ジョージは、ケンブリッジ大学の流体力学の研究者で、最近細い管に低抵抗で液体を流す機構を見い出した。


上記の研究は相互に何も関連がなく、お互いに相手の研究結果を自分の研究と関連づけることはなかった。

これらの研究に対して、東京大学のスティーブンは、アントンの触媒をスーザンの方法で加工した。それから、ジョージの流路を熱除去に適用することに思い至り、アリスのLCAを適用してみたところ、燃料電池の性能はケタ違いに改良され実用可能であることを発見した。

その新知識をベースに起業した。

現在、燃料電池自動車が環境問題に大いなる寄与をする時代がくると期待されている」


上記は、知識の収集と統合による問題解決の例である。適切な知識を適切に動員することは、複雑な問題解決の鍵である。しかし、単に知識を収集して統合すれば新知識が生成される訳ではない。

ここで利用される思想と方法論が、知識の構造化である。知識を構造化して問題解決に成功した例は、さまざまな分野で報告されはじめている。知識の構造化が、大学のアカデミックな問題から産業界の現実的な問題まで幅広く適用されるようになるであろう。






From:
『知識の構造化』
小宮山宏 著

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