2015年7月6日月曜日

「猫でも渡るぞ」 [沢庵和尚]



〜話:加藤咄堂〜




 宗矩(むねのり)一日雨降るの中を、ヒラリと庭の飛石(とびいし)に下り、またヒラリと縁に帰り、電光石火、衣袂(いべい)少しも潤はず。沢庵(たくあん)に誇りていふ。

「和尚、これが出来るか」

沢庵、悠々として庭に下り来り、衣袂ことごとく潤ふ。すなわち宗矩(むねのり)を顧みて曰く

「此(かく)の如くにして正しきに適(かな)ふ。卿(おんみ)の為すところは軽業師(かるわざし)の行ふ道のみ」と。



又一日、五寸ばかりの細長き板を縁と縁とに渡して、

「柳生(宗矩)殿、これが渡れるか」と。

宗矩(むねのり)、

「これは嬰児(あかご)でも渡れる」

といふと、さればかくして渡り得るかと、其の板を屋上に架す。宗矩、色少しく阻む。和尚、大笑していふ、

「猫でも渡るぞ」と。

板動かずして、心まづ動く。和尚これを戒めたるなり。







出典:加藤咄堂『剣客禅話




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