〜話:黙雷禅師〜
三橋飛騨守の禅機
昔、三橋飛騨守といふ町奉行があったが、彼は禅機を得たる一名士であった。あるとき部下の輩を集めて弓術大会を開いた。そのとき賞品を与えたやり方が中的者(的に当てた者)の他に不中的者のもの(的を外した者)までにも与えられた。そこで中的者は多少不満に思ふて
「中不中(当たる当たらぬ)を論ぜず賞誉せられたは如何なる御意見か」
と尋ねると、奉行は呵々と一笑して
「『能射者不当的』だ。的に当てた貴様ら、矢を放つまでに呼吸が三度変わった。能く当てぬ方は的にこそ放づれたれ(外れたれ)、その呼吸はじつに平然であった。だから当てた方は実戦に間にあはぬ弓で、当てなかった方がかえって実戦に大威力を現はすのだ。実地の用は中(当たる)と不中(当たらぬ)に関せず、その態度その心持ちの如何にある。呼吸まで変えて的に中てたとて、それが何の功名であるか」と。
…
出典:竹田黙雷『
黙雷禅話』
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