2016年4月29日金曜日

「自然より自然である風景」[犬塚勉]



日曜美術館
アートシーンより




犬塚勉絵画展
より


キャンバスが草でほぼ埋め尽くされた頃、突然振り向き

「ひょっとすると真実を見つけたかもしれない」

と 真顔で語り出す。

「人を描かずして人を感じさせる。それも緑一色の絶妙なグラデーションで。人が、きれいな景色だ、と言うのとはまったく違う感覚で私は感動している」


『梅雨の晴れ間』
1986


『梅雨の晴れ間』犬塚勉


描きたいのは「風景」ではなく「自然」である

圧倒的な自然のみを描く

山へ、森へ、徹底的に歩き回ろう


犬塚勉



自然と一体化するように絵をかきたい。そう願った犬塚は、山に登り、体で感じとった自然の息吹そのものを描こうとしました。


犬塚勉絵画展
より


自らシャッターを切った写真をイーゼルの右端に貼る。しばらくじっと眺め、一気に描き始めた。

瞬く間に北岳からの稜線が浮かび上がり、清々しい大気が画面に広がる。

翌朝にはすべての石から光が放たれ、あっと息をのむようだった。


『縦走路』
1986

『縦走路』犬塚勉


「自然より自然である風景

中途半端な自然人ではいけない

徹底的な自然人でなければならない」


犬塚勉



身を削り精神を研ぎ澄ませて自然を描き、 ひたむきに山に登り続けた。

体力の限界に近い山行をくりかえす。


厳しい登山者のみに許された風景との出会い

鋭い観察者のみが見出しうる景色

それを絵画で表現する


犬塚勉


「自然」の何に魅かれているのかを探究するほどに、彼の登山は厳しさを増していった。
人が「生き、かつ死に得る」決定的な視覚体験を描きたいと願う。


「死の淵に己を追いつめ、やっと出逢うことの許される世界を体験せねばならない」


犬塚勉



犬塚の絶筆。

『黒く深き渓谷の入り口Ⅰ』
1988


「ただひたすら美しい

そして深い自然を想わせる

描いて、描いて、描きまくって

最後に色つきの水をこぼすとかして仕上げる」


犬塚勉


『黒く深き渓谷の入り口Ⅰ』犬塚勉


「岳人」2012年9月号より

渓谷をモチーフに「暗く深き渓谷の入口」を制作中の1988年9月23日

「もう一度、水を見てくる」

と家族に言い残して谷川連峰の赤谷川本谷に入渓。悪天候につかまり、稜線に抜けたところで遭難。二度と絵筆を握ることは叶わない、38 歳の、あまりに突然の死だった。






ザックに遺されていたのは

砕けたラーメン

大型カメラ

そして、真紅のモミジであった。








ソース:
犬塚勉絵画展
岳人 2012年 09月号 [雑誌]
日曜美術館アートシーン 犬塚勉「永遠の光、一瞬の風」








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