2018年5月16日水曜日

「16年間で2歳しか老化しなかった人」の話


From:
レイ・カーツワイル
Ray Kurzweil
『シンギュラリティは近い』


デザイナー・ベビーブーマー


病気の進行や老化を遅らせるための情報はすでに十分でそろっているので、わたしを含むベビーブーマーは、バイオテクノロジー革命が頂点を極めるまで、この健康をいじできるだろう。そしてバイオテクノロジー革命そのものが、ナノテクノロジー革命への架け橋となる。

わたしは、長寿研究の最先端にいる医学博士、テリー・グロスマンとの共著『素晴らしい未来への航海――永遠の命を手に入れる(Fantastic Voyage: Live Long Enough to Live Forever)』で、画期的な長寿へと導く3つの架け橋(現有の知識、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー)について説いた。

その本に、こう記している。

「同世代の人の中には、老化を人生のひとつの過程として潔く受け入れようとする人もいるが、わたしの考えは違う。老化は『自然なこと』かもしれないが、頭がさびついたり、感覚が鈍くなったり、体が硬くなったり、性欲が衰えたり、なんであれ人間の能力が失われていくのを肯定的にとらえることなど、私にはできない。わたしから見れば、何歳になっていても病気と死は不幸な出来事であり、克服すべきものなのだ」






その本で「第一の架け橋」とみなした「現有の知識」には、知識を最大限に活用し、老化を大幅に遅らせ、心臓疾患や癌、Ⅱ型(インシュリン非依存型)糖尿病、脳卒中といった深刻な病を治すことも含まれる。

われわれは、事実上、自分の生化学的組成をプログラムし直せるようになった。つまり、現有の知識を積極的に活用すれば、大多数の病気を支配する遺伝的運命を克服できるところまで来ているのだ。「遺伝でほとんど決まっている」というのは、健康と老化に対してこれまでと変わらず、受け身でいる人の逃げ口上である。

わたし自身の話が教訓になるだろう。

20年以上も前に、わたしはⅡ型糖尿病と診断されたが、従来の治療では悪化する一方だったので、発明家としての観点から、この健康を脅かす難問に取り組んだ。専門文献を読み漁り、独自のプログラムを開発し、ついに糖尿病の治癒に成功したのだ。

1993年に、この経験をもとにして健康に関する本(『健康的な生活を送るための10%の解決策(The 10% Solution for a Healthy Life)』)を書いた。今もその症状や合併症はまったく出ていない。





40歳のとき、わたしの生物学的年齢は38歳前後だった。

現在56歳だが、グロスマンの長寿クリニックで生物学的年齢を総合的に(さまざまな感覚の鋭敏さ、肺活量、反応時間、記憶力、その他のテストによって)測定したところ、40歳という結果がでた。

生物学的年齢の測定方法についてはいろいろは意見があるが、わたしの点数は40歳の平均値と一致している。つまり、この一連のテストによると、過去16年間で、それほど老いていないことになる。それはいくつも受けた血液検査の結果とも一致しているし、実感でもある。

こうした結果は偶然の産物ではない。わたしは自らの生化学的組成を果敢に再プログラムしてきたのだ。毎日サプリメントを250粒摂取し、週6回、静脈内投与(基本的には栄養補給剤を直接血流に注入し、胃腸管を迂回させる)を受けている。その結果、体内の代謝反応はそうしなかった場合とは格段に違ってきた。



ケンブリッジ大学遺伝学科の科学者、オーブリー・デ・グレイは生物の基礎となっている情報プロセスを変化させて老化を阻止することを、深い洞察力をもって熱心に訴えている。

デ・グレイは家のメンテナンスをたとえに使っている。

家はいつまで使えるだろう? それは、あなたの手入れ次第だ。なにもしなければ、じきに屋根から雨漏りしはじめ、家は風雨に侵され、やがて崩壊する。しかし先手をうって構造を手入れし、壊れたところは全て直し、危険に対処し、新しい部材や技術をもちいて修繕やリフォームをしていれば、基本的に家の寿命に限界はなくなる。

われわれの身体や脳も同じことだ。

唯一の違いは、家を手入れする方法は熟知していても、生命の生物学的原則は、まだ完全にわかっていないところにある。しかし、生命の生化学的なプロセスと反応経路への理解が急速に深まるにつれて、その知識もかなりの速さで増えている。

そして老化とは、否応なく前進させられる一本の道ではなく、関連するプロセスのまとまりと見なされるようになってきた。





From:
レイ・カーツワイル
Ray Kurzweil
『シンギュラリティは近い』

0 件のコメント:

コメントを投稿