2018年5月17日木曜日

宇宙の最初の『巨大な鶏卵』【中国古代神話】


From:
竹内 照夫
四書五経入門―中国思想の形成と展開
 (平凡社ライブラリー) 単行本 – 2000/1/1





盤古(ばんこ)


宇宙の最初、そこには天地も日月もなく、それは暗黒の、混沌たる一つのかたまり、いわば巨大な鶏卵のようなものであった。

――やがて、そのなかに生き物が一つ芽生え、1万8千年かかって成長をとげ、盤古(ばんこ)という神になった。かれは暗黒のなかにじっとせぐくまって、生きておった。


ある日、すさまじい音がして突然に卵が割れ、内部の軽くて清らかな成分は、ふわふわと雲をなし上昇して天空となり、重くて濁った成分は、下に沈み固まって大地となった。

そこで自然に盤古(ばんこ)は突っ立って、頭と両手で天をささえ、両足で大地を踏みしめる形になった。

さて宇宙はすみやかに膨張し、毎日、天は一丈ずつ高くなり、地は一丈ずつ厚くなり、また盤古(ばんこ)の身もずんずん大きくなり、この膨張が1万8千年のあいだつづいた。

――今や、高い青空と広い大地との中間に、途方もない巨人たる盤古(ばんこ)が、天地の柱として突っ立っているのであった。


盤古(ばんこ)は、暗く静まりかえった広大な宇宙のただなかに、まさしく孤独のままで、辛抱づよく天空をささえ、長い時間を耐えたが、やがて疲れ果て、横たわって死んだ。

――すでに天地は固まっていて、この巨人の柱が抜けても崩れなかった。

盤古(ばんこ)が死ぬと、そのいまわのきわの声は雷となり、息は風となり、左眼は太陽に、右眼は月に、手足は山々に、血潮は川になるなど、身体の各部がすべてそれぞれに変化して、天地間の万物になった。


五色の石


天地が開け、山川草木や虫魚鳥獣はでそろったが、まだ人間はいなかった。

そのとき、女媧(じょか)という神が、土を水でこねて、初めて人間を造った。一つ一つ丹念に造っているわけにはゆかないので、しまいには、縄を泥に浸して引き上げ、したたり落ちた泥を人間にした。だから初期に造られたのは上等な人間になり、あとで造られたのは下賤の人間になった。


また、このころ、水神の共工(きょうこう)と火神の祝融(しゅくゆう)がケンカをして、ものすごい闘争を演じたが、ついに敗れた共工は不周(ふしゅう)山に頭を打ちつけて死んだ。その激しさに山が割れ、地が裂け、天空にヒビがはいった。

そこで女媧(じょか)は川の底をさぐって五色の石を拾い集め、火にかけて練り合わせ、これで天のヒビをつくろい、また巨大な亀を殺し、その四脚を切り取って、これを大地の四方に立て、天地の間の柱とした。

これで天地は崩れずに済んだが、このときから天は西北に傾き、そのため日月星辰は東にでて西に沈み、また地は東南にくぼみができて、そのため百川はここに流れ込み、海をなすようになった。


帝俊


人間生活に文明をもたらし、文化を開いた神々は、黄帝(こうてい)・神農(しんのう)・伏羲(ふくぎ)・帝嚳(ていこく)・帝俊(ていしゅん、舜)などであり、「三皇五帝」と呼ばれる諸神もしくは諸英雄がそれである。

そして、これらのなかでも最も重要なのは帝俊(ていしゅん)である。


帝俊(ていしゅん)には三妻があった。ひとりは娥皇(がこう)で、これは三身国を生んだ。その国人はみな一頭三身で、五穀をつくり、また虎・豹・熊などを使いならした。

もうひとりの妻は羲和(ぎか)で、10人の太陽神を生み、東海の海のはずれに住み、毎日ひとりずつ太陽を洗い上げては空にのぼすのであった。

もうひとりの妻は常儀(じょうぎ)で、この人は12月の月神を生み、西方の野に住んで月神のせわをした。


帝俊には后謖(こうしょく)や義均(ぎきん)をはじめ、なお多くの子孫があり、衣食住の法や工芸美術の道を人に教え、文明を大いに進歩させた。

なお帝俊の世には、美しい五彩の鳥が東方の野に舞い遊んでいたが、後世に太平の象徴と認められた鳳凰というのは、この鳥の一種である。




以上に述べたのは、中国の古代神話の一部分であるが、むかし中国ではこうした怪奇な物語は四書五経のような正統の経書に記録されず、神話伝説の類をおさめたものは雑説とか小説とかよばれる著述としてあつかわれた。

つまり本格的な学問や教養の対象とするに足りない、雑多な、価値の低い伝承とみられたのである。



From:
竹内 照夫
四書五経入門―中国思想の形成と展開
 (平凡社ライブラリー) 単行本 – 2000/1/1



0 件のコメント:

コメントを投稿