2018年5月12日土曜日

コウモリが「空飛ぶ変な哺乳類」であるように、鳥も「変な恐竜」なのだ。


From:
日経サイエンス2017年6月号
Stephen Brusatte
『羽根と翼の進化』




鳥類には他のすべての現生動物と一線を画す特徴がおおくある。飛行能力をもたらす形質だけでなく、代謝が極めて高いために驚くほど成長がはやく、脳が大きいために高い知性と鋭敏な感覚をそなえている。実際、鳥類は非常に独特なので、研究者たちは長い間その起源について頭を悩ませてきた。

1860年代、ダーウィンの親友の一人で、もっとも声高な支持者だったイギリスの生物学者ハクスリー(Thomas Henry Huxley)は、鳥類の起源の謎に挑みはじめた。





ダーウィンが1859年に『種の起源』を出版してからわずか数年後、独バイエルンの採石場で、労働者が割った石灰岩のなかから1億5千万年前の骨格があらわれた。爬虫類のような鋭いカギ爪と長い尾、鳥のような羽毛と翼をあわせもつ動物の化石だった。

始祖鳥(Archaeopteryx)と命名されたこの動物が、やはりその当時に見つかりはじめていたコンプソグナトゥス(Compsognathus)などの小型肉食恐竜に不気味なほど似ていることにハクスリーは気づいた。

そこで彼は「鳥類は恐竜の子孫である」という大胆な説を発表した。ほかの科学者は彼の説に反対し、議論はその後100年間、行ったり来たりの状態だった。





この議論は、よくあることだが、新しい化石の発見によって決着がついた。

1960年代中頃、エール大学の古生物学者オストロム(John Ostrom)が北アメリカ大陸西部で、驚くほど鳥に似た恐竜デイノニクス(Deinonychus)の化石を発見した。その長い前肢は翼のように見え、しなやかな体つきは活動的な動物を思わせた。





デイノニクスには羽毛まで生えていたとオストロムは推測した。もし鳥類が恐竜から進化したのなら(そのころには多くの古生物学者がこの説を受け入れはじめていた)、その進化系統のどこかで羽毛が生じなくてはならない。

だが、彼には確信がなかった。手元にあるのはデイノニクスの骨だけだったからだ。残念なことに、羽毛のような軟らかい組織はほとんどの場合、動物が死んで腐敗し、地中に埋まって化石化する過程で失われてしまう。

オストロムは待った。鳥類と恐竜の関係を疑いの余地なく証明できる聖杯、羽毛があったことを実証できる細部まで保存された恐竜の骨格を探しつづけた。





そして引退間近の1996年、彼はニューヨークで開かれた古脊椎動物学会の年次会合に出席し、現在カナダのアルバータ大学にいるカリー(Philip Currie)に声をかけられた。やはり鳥に似た恐竜を研究していたカリーは中国から戻ったばかりで、同国で驚くべき化石のことを耳にしていた。

彼は一枚の写真を取りだしてオストロムに見せた。それにはなんと、羽のようなふわふわしたものに囲まれた、小さな恐竜が写っていた。この恐竜は、ポンペイのように火山灰によって素早く埋められたため、完全な状態で保存されていた。

オストロムはうれし泣きした。羽毛恐竜が、ついに発見されたのだ。






この化石は後にシノサウロプテリクス(Sinosauropteryx)と命名され、これを皮切りに新たな化石がつぎつぎに発見された。

科学者たちはゴールドラッシュ時代の採掘者のように、その恐竜が発見された遼寧省に駆けつけたが、どこを探したらよいかを知っていたのは地元の農夫たちだった。同省ではそれ以降、これまでの20年間に、20種類以上の羽毛恐竜の化石が見つかっている。

全長が9mもあって毛髪のようなもので覆われたティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)と、同系統の初期の恐竜や、ヤマアラシの針のように羽毛が生えた犬ほどのサイズの草食恐竜、完全な翼をもつカラス大の飛翔恐竜などだ。これらの化石は、世界で最も有名な化石に仲間入りした。





遼寧省で発見されたこれら羽毛恐竜によって議論は決着した。

鳥類は実際に恐竜から進化したのだ。ただ、この言い方は両者が完全な別物であるような印象をあたえる点で、やや不適切かもしれない。実際には「鳥は恐竜だ」。

鳥類は恐竜と祖先を共有する、多数の下位グループの一つであり、トリケラトプス(Triceratops)やブロントサウルス(Brontosaurus)とまったく同様に恐竜なのだ。

次のように考えてもよい。

コウモリが「空飛ぶ変な哺乳類」であるように、鳥も「変な恐竜」なのだ。




From:
日経サイエンス2017年6月号
Stephen Brusatte
『羽根と翼の進化』



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