「犬ってね、楽しくなきゃ仕事をしないんですよ」
そう言うのは、盲導犬の訓練士「多和田悟(たわだ・さとる)」さん。
「我慢して仕事やるなんていう犬、見たことない」
多和田さんは、世界で30人しかいないという国際盲導犬連盟の査察員に選ばれた唯一の日本人。そう、「伝説の盲導犬訓練士」である。
盲導犬をつくっているというその場所は、まるでドッグラン。
「遊んでるみたいでしょ」と多和田さん。
たとえ盲導犬といえども、犬には人のために仕事をしているという意識はない。ただ、訓練士のお姉ちゃんと遊びたいのだ。
「まず、お姉ちゃんに夢中なんですよ。ああやって、頭さわってもらって。だって、叱っても問題しか起こらないしね(笑)」
そのお姉ちゃんは、犬が正しい行動をとると「Good」という言葉を連発。
褒められて楽しいと感じれば、犬はまた褒められたくて、同じ行動をとるようになるという。それは次第に高度な技術へと発展していく小さな第一歩である。
多和田さんは言う。
「褒めて育てる。犬の能力を最大限に引き出すには、それしかない」
しかし、「ただ褒めるだけではダメだ」とも多和田さんは言う。
大切なのは「褒めるタイミング」なのだという。
「褒める時、やり終わってから言わないの。もう遅い」
「たとえば、Sitと言って座らせて…、ほら、座りが完成する前にGoodって言ってるでしょ」
とらせようと思った行動が終わる前に「Good」と褒めてあげる。アクションを起こした瞬間に褒めることで、犬にその行動が正しいことを伝えるのである。
というのも、犬は最初、その行動が正しいかどうか分からないので、少し迷っている。その迷った背中を押してあげるのが、訓練士たちの「褒めるタイミング」なのである。
「犬にものを教えるのに体罰は必要ありません」
多和田さんは、そう断言する。
「いい子だね、いい子だね、こればっかりですよ。もう、ただのバカ親父ですよ(笑)」
犬の心は、純粋すぎるほどにシンプルである。
その点、「いや、そうじゃないもん!」と歯向かうことのある人間とは大きく異なる。しかし、たとえ複雑な人間の心とはいえ、その根底に根差すのは盲導犬のようなシンプルさではなかろうか。
現在、日本で活躍する盲導犬は1,043頭。
これは圧倒的に足りない数字だ。盲導犬の希望者はその3倍の3,000人を超えるというのだから。
じつは、訓練をへて最終的に盲導犬になれるのは、3〜4割と意外に難しい。それでも、多和田さんを始めとする訓練士たちは、日夜の努力を惜しむことがない。
「褒めて、育てて、”ワン”ダフル!」
(了)
出典:探検バクモン
「盲導犬でワンダフル!」
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