2013年11月8日金曜日

小さくも大きな「小指」



話:桜井章一


小指というのは、5本の指のなかで最も存在感のない指と思われがちだ。

何かを持ったり運んだりするとき、小指はあくまでも補助的な役割しか果たしていない。ほかの指の”添えもの”のようについている小さくて弱々しい指。そんなイメージがこの指にはある。

しかし実際には、小指の役割というのは、非常に大きな意味をもっている。

たとえば、机にあるコップを持ち上げ、それを”できるだけ静かに”置くとしよう。その際、小指をコップから離して他の4本だけでコップを置く場合と、その4本の指に軽く小指を添えて置く場合とを比べると、コップが置かれるときの音は明らかに後者のほうが柔らかい。

このように、小指を意識して使うとカラダの動作は柔らかくなる。仕事で指を使う人、たとえば職人でも茶人でも舞踏家でも、一流といわれる人はみな例外なく小指の使い方がきれいなはずである。

沖縄空手は、親指を切り落とされて剣を握れなくなった武士が沖縄にわたって始めたという異説があるが、斬られたのが小指であればどうだったか。ためしに小指を外して拳を握ってもらうとわかるが、それでは力が思うように入らない。ヤクザは”無用の指”ということで小指を落とすことをするが、それを最初に考えた人は、もしかして最も深い意味を知ってそうしたのかもしれない。

このように小指というのは、イメージと違って決して小さな存在ではない。それどころか、指のなかで最も非力なのに、最も重要な働きを担っているのである。



それでは、小指と対照的な存在感をもっている親指は、どのような使い方をするのが望ましいのか?

親指に対して抱くイメージは力強いものだが、親指の力に頼ったカラダの動きは硬くてぎこちないものになる。たとえば拳を握ってパンチを繰り出すとき、親指にグッと力を入れてみると、カラダから腕だけが切り離されたようになり威力がでない。相撲でも親指に力を入れると肩に力が入って、腰から下が沈んでしまう。

ようするに、親指は力のでる指だからといって、その通りに力を入れてはいけないのだ。スポーツでも指を使った作業でも、親指はむしろ柔らかく使ったほうがいい。

このように、小指にしろ親指にしろ、”イメージとは違う働きかた”をしているのであり、その使い方もそれに応じた工夫をすべきなのである。




引用:桜井章一『体を整える

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