2012年9月18日火曜日
スラムは「お荷物」か? 未開拓の巨大市場。
ケニアの首都ナイロビのすぐ近くには、「キベラ」というアフリカ最大級のスラム街が広がっている。そこに暮らす人は約100万人、首都ナイロビのおよそ5分の1もの人々がスラム街に暮らしていることになる。
しかし、ケニア政府はこのスラム街「キベラ」を「まるで存在しないかのように」振舞ってきた。土地利用地図を見ると、このスラム街は居住地区ではなく「森」と表示されている。
そのため、公共サービスは当然のように一切ない。そのため、スラムの住民たちは「飲み水」を手に入れるのに、普通の人の20倍ものお金を払わなければならない。
地球上の「7人に1人」は、こうしたスラム街、もしくは不法占拠地域に暮らしている(その数およそ8〜9億人)というが、こうした地域は、その国にとっての「お荷物」なのだろうか?
いや、そうとばかりも言い切れない。なにせ、ほとんどの新興経済国で「最も成長が期待できる」のは、じつはこの「闇の世界」なのである。今や、世界の労働人口の半数以上にあたる約18億人もの人々が、闇世界で生計を立てているのである。
「この地下経済の生み出す18億人という雇用は、どんな政府や世界企業にも創り出せないほど大規模なものである」
政府の損失は、この地下の巨大市場を「非合法」としているために、「課税」できないことである。闇の住人たちは、本当は正式な許可が欲しがっている人もたくさんいる。警察にビクビクしながら商売をするのは心地の良いものではない。
そもそも、闇経済というと麻薬取引のような「犯罪活動」を連想してしまうかもしれない。しかし実際は、「無認可の建設業や屋台の食べ物屋、インターネットで商品をせっせと売っているファッション・デザイナー」など、そのほとんどが「害のない仕事」をしているのである。
もし、その健全な部分だけでも「合法化」して課税すれば、それは政府にとって大きな収入ともなり得る。
ところが、たいがいの政府は非合法地域を認めないばかりか、強制排除という強硬手段に訴えてしまうこともしばしばである。ナイジェリアなどでは、住民の70〜80%が闇経済に関わっていると推定されている。それを追いだそうとするのは、いったい現実的な話なのであろうか。
ウィスコンシン大学で都市計画の教授を務めるモラレスは、「単に法を執行すれば良いという考え方から、『人々の分け前が増えるように、パイを大きくしよう』という考え方に変えていく必要がある」と言う。
忘れてはならないのは、今は大都市と化したサンフランシスコ(アメリカ)でさえ、150年前には「静かな漁村」だったということである。
コールド・ラッシュに沸き立ったサンフランシスコには、何千人もの「不法占拠者」が全米から押し寄せ、居座った。
サンフランシスコは、彼らを追い出そうとしたか? いや、逆に「合法」と認めて、彼らを力に変えたからこそ、今のサンフランシスコが存在するのである。
出典:日経サイエンス 2011年 12月号
「スラムの活力」
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