山寺・立石寺に納められている不思議な絵馬。
「ムカサリ絵馬」
ムカサリは古い言葉で「結婚」を意味する。描かれている花嫁や花婿はこの世にはいない。わが子と死に別れた親たちが、子供が生きていたら適齢期を迎える頃、絵馬の中で結婚を祝うのである。
ムカサリ絵馬を描く人が今もいる。絵師・高橋知佳子さん。遺族に頼まれ、これまで100以上の絵馬を手がけてきたという。
今描いているのは、16歳で亡くなった少年。遺影を元に、成人した姿を思い描く。
少年の母親が絵馬を受け取りに来る。
「おめでとうございます」
「喜んでるかね? ちょうど命日なんで…。こんなキレイな花嫁さんを娶ったら、もう親としては…。優しい子だったからね…」
遠く隔たってしまった親と子、あの世とこの世。
二つの世界を繋ぎ止めるのが、このムカサリ絵馬である。
出典:NHK新日本風土記「奥の細道」
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