時は幕末、すでに明治新政府軍は福島・会津城下に侵入し、旧幕府軍は北方へと追われるように退避していた。そんな劣勢下、会津北方の塩川村にあった大鳥圭介は、会津退去をほのめかした。
「会津の危機に何ら手助けできないのは忍びない…。だが、弾薬や食糧も足りず、兵卒の士気も落ちている…」
沈黙の続く中…、「誠義にあらず!」。一人の男がずけりとそう言って、立ち上がる。
「落城近しと見て志を捨てるのは、義にもとるのではないかっ!」
怪訝な顔をする大鳥に、その男は静かに続ける。「これは失礼。私は新選組を預かる山口次郎。京都にいた頃は、『斎藤一(はじめ)』と名乗った者です」。
「さ、斎藤一! あの…」
戦慄がその場に走った。幕末最強の剣客軍団・新選組。その中でも屈指の剣士とされるのが「斎藤一」であった。会津戦争にあっては、土方歳三から新選組を託されていた男である。
「誠の旗を立てろ! 他の者はいざ知らず、俺たち新選組は何があってもここで戦い抜く!」
そう叫び上げるや、斎藤一は真っ先に敵陣へと斬り込んでいった。斎藤一の駆けたあと、次々と血煙と絶叫が上がる。これぞ、幕末の京を震撼させた男の剣であった。
出典:歴史街道 2012年 09月号
総力特集「新選組・斎藤一 剣に生き『士道』を貫く」
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