「李斯(りし)」は楚の上蔡の出身である。若いころは郷里で小役人を勤めていた。
その頃のこと、彼はよく役所の便所でネズミが糞を食っているのを見た。便所のネズミは人間や犬の気配を気にして、いつもビクビクしていた。
ところが、たまたま食糧庫に入ったときのこと、彼はそこでもネズミを見た。こちらのネズミは穀物を食っている。しかも、立派な建物のなかで、人間や犬の心配もなしに、ゆうゆうと食っているではないか。
この2つの情景を思い合わせて、李斯は思わず嘆息した。
「人間だって同じことだ。なんのかんの言ったところで、結局、どこに身を置くかで、その人間の価値が決まるのだ」
”李斯は、楚の上蔡の人なり。年少き時、郡の小吏となる。吏舎廁中の鼠、不潔を食い、人犬に近づき、しばしばこれに驚恐するを見る。斯、倉に入り、倉中の鼠、積粟を食い、大廡の下に居りて、人犬の憂いを見ざるを観る。ここにおいて李斯すなわち嘆じて曰く、「人の賢不肖は譬えば鼠のごとく、自ら処るところに在るのみ(司馬遷『史記』)”
引用:史記〈3〉独裁の虚実 (徳間文庫)
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