2013年10月11日金曜日

便所のネズミと、倉のネズミ [史記]





「李斯(りし)」は楚の上蔡の出身である。若いころは郷里で小役人を勤めていた。

その頃のこと、彼はよく役所の便所でネズミが糞を食っているのを見た。便所のネズミは人間や犬の気配を気にして、いつもビクビクしていた。

ところが、たまたま食糧庫に入ったときのこと、彼はそこでもネズミを見た。こちらのネズミは穀物を食っている。しかも、立派な建物のなかで、人間や犬の心配もなしに、ゆうゆうと食っているではないか。



この2つの情景を思い合わせて、李斯は思わず嘆息した。

「人間だって同じことだ。なんのかんの言ったところで、結局、どこに身を置くかで、その人間の価値が決まるのだ」



”李斯は、楚の上蔡の人なり。年少き時、郡の小吏となる。吏舎廁中の鼠、不潔を食い、人犬に近づき、しばしばこれに驚恐するを見る。斯、倉に入り、倉中の鼠、積粟を食い、大廡の下に居りて、人犬の憂いを見ざるを観る。ここにおいて李斯すなわち嘆じて曰く、「人の賢不肖は譬えば鼠のごとく、自ら処るところに在るのみ(司馬遷『史記』)”

引用:史記〈3〉独裁の虚実 (徳間文庫)


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