2013年10月29日火曜日

武士の最高なる者 [新渡戸稲造]



武士道を「山」とたとえた新渡戸稲造

その山は麓から「ほぼ五帯に区分する」というが、その最高峰には…



話:新渡戸稲造

汝は峻険崎嶇(きく)たる山径を攀じ、至高の地帯に登りて、武士の最高なる者を見んとする乎。

ここに在りては、汝を迎うるに、すこぶる柔和なる民族の毫も軍人的にならず、その容貌態度ほとんど婦人に類するものあり。汝は彼らを見て武夫なるや否やを疑わんとす。汝は一見もって彼らを凡人視することもあらん。

彼らは尊大ならず。汝は容易に彼らに近づくを得べく、彼らの親しみ易きがゆえに、狎れ易しとなさん。されど汝は近づかざらんとするも能わざるがゆえに、彼らに接し来ることなるを知らん。彼らは貴賎、大小、老幼、賢愚と等しく交わり、その態度は嫺雅(かんが)優美なりというもおろか、愛情はその目より輝き、その唇に震う。

彼らの来るや、爽然たる薫風吹き渡り、彼らの去るや、吾人が心裡の暖気なお存す。学をてらわずして教え、恩を加えずして保護し、説かずして化し、助けずして補い、施さずして救い、薬餌を与えずして癒し、論破せずして信服せしむる。

彼らは小児のごとく戯れかつ笑う。彼らの戯は無邪気というもなかなかに、罪を辱かしむるものなり。彼らの笑は微かなりといえども、萎えたる霊魂を蘇生せしむ。彼らの小児らしきは、罪ある良心をして、純潔を羨望せしむ。彼ら泣かば、その涙は人の重荷を洗い去る。










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引用:新渡戸稲造『武士道の山

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